東洋医学の「肝臓」って何だろう

東洋医学の「肝臓」は、西洋医学でいう肝臓とは違います。これは杉田玄白が、東洋医学の概念と西洋医学の概念のちがいを知ることなく、東洋医学の言葉である肝臓を、西洋医学に転用してしまったために起こった混乱です。そのため、同名異義の言葉が、両医学の中に混在してしまう結果となりました。そこを念頭に置いて読み進めてください。

≫詳しくは「五臓六腑って何だろう」で説明しました。

それからもう一つ大切な前提があります。東洋医学の言葉は、すべて機能に名づけられたもので、物質に名づけられたものではないということです。これから肝臓について説明しますが、肝臓を物質として考えて読むと分かりづらくなります。あくまでも機能 (=気) についた名称と考えて読み進めてください。

≫「東洋医学の気って何だろう」をご参考に

キーワード

肝臓と言う機能は、現代語訳せよといわれると、一番こまります。なぜかと言うと、人間の深層心理…つまり無意識に深く関与し、また肉体の無意識…つまり自律的な働き…つまり、自律神経や免疫に深くかかわるからです。

無意識は自我との深いかかわりを持ちます。ですから、自我 (自意識) をからめて説明しなければなりません。

自我…無意識…自律神経…免疫…これらのキーワードを眺めて、イメージすることは?
うーん、最初から難しいですね。

ストレスに関係

たとえ話をしましょう。長嶋茂雄さんが、脳梗塞で倒れられたことは、皆さんご存知ですね。実は、この原因には、東洋医学で言うところの「肝臓」という機能が深くかかわっています。

アテネオリンピック。野球の日本代表チームが、世界各国の代表チームと戦い、世界一を決める大会でした。日本は代表監督に長嶋茂雄さんを選びました。長嶋さんもその重責を引きうけられました。史上はじめての日の丸を背負ったプロ集団の監督です。日本で一番人気のあるスポーツ、野球ですよ。

責任感もサービス精神も旺盛な長嶋さんは、その重責に、
「もしも負けたら、大変なことになるよ。もう日本にはいられなくなるかもしれないよ」
と家族に漏らしていたと言います。天真爛漫なイメージとは随分ちがいますね。

そして、開催直前に倒れ、一時は、生死をさまようような重体に陥りました。あれだけ明るく快活だった監督の、あまりにも突然のニュース。ここに我々は、「ストレス」というものを意識せざるを得ません。

では、ストレスとは何者なのか。下手をすると、死に追いやるほどの負のパワー。本当にストレスか原因なのか? それともただの偶然なのか? 東洋医学は三千年も前からここに目をつけ、そのメカニズムを分析してきました。そのメカニズムの中心に「肝臓」という名をつけたのです。

木の「条達」

東洋医学は、肝臓を色々なものに例えています。
…例えば「木」
…例えば「将軍」
…例えば「魂」

まず「木」について説明を試みましょう。皆さんの木のイメージは何でしょう? 色々あると思いますか、ここでは、
上にのびのびと伸びてゆく、自由闊達さ」
をイメージして下さい。肝臓には、そういう側面があります。新緑の季節、木々は美しい新芽を出し、上に上に伸び広がります。

こんな木を見て、われわれはどんな気持ちになるでしょう? やはり伸びやかで爽やかな気持ちになります。これが我々の体に「木」という働きがある証拠で、この働きを「条達作用」といいます。「疏泄」も同義です。

条達は「道」

「条」とは? Wiktionaryによると、字源は…
水の流れる様から「細長い」意が生じた。細長い木の枝。すじ。すじみち。…らしいです。
つまり、スジのように「達」する…まっすぐ、すんなり伸びて到達する様子です。
心身ともにこういう状態であれば、まず病気にはならない。また、病気になったとしても、すぐに治ってしまう。こういうことを古代中国人はよく知っていました。

世間では、「ドクハラ」と言う言葉があるみたいですね。ドクターが患者にひどいことを言うことなんですが、これなんか、言語道断ですね。治したいのか、病気を重くしたいのか、意味不明です。物質医学に偏ると、「人間」が見えなくなるのかもしれません。

ストレスと条達

木というのは、太陽にすごく左右されますね。東から日が当たれば、東に向かって伸び、西から当たれば、西に成長します。太陽の光が上から降り注いでいれば、真上にすくすくと成長します。そして、太陽が当たらないと成長しません。それどころか、ねじけ、曲がり、最後には枯れてしまいます。

太陽とは心 (こころ) です。心つまり自我…自意識とも言いますね。太陽と言えば、長嶋茂雄さんのイメージですよね。ところが、長嶋さんの太陽は、アテネで光を失った。ストレスが太陽を曇らせたのです。すると長嶋さんの「肝木」が「条達」できなくなってしまった。

ここまでは分かります。しかし、のびのびできなくなったくらいで、どうして長嶋さんは倒れてしまったのでしょう。ここで「陰陽論」が必要になります。陰極まって陽になる。陽極まって陰になる。この転化の法則が、理論的根拠になってきます。

つまり、すがすがしい太陽の光を浴びて行われていた「正常」な条達が、太陽の急激な変化によって、「異常」な条達に変化した。正常と異常。これも陰陽です。異常な条達は、人体の上部である頭部に、異常なアクションをおこした。結果的に、脳の血管を攻撃し、細胞を死滅に追い込んだ。のびのびとした道 (正しい道) をとらずに、脳への道 (誤った道) を選択したのです。

将軍

なんか、肝臓って恐いっていうか、激しいっていうか、猛々しいですね。これが肝臓のもう一つの横顔である、「将軍」としての側面です。ただし「将軍」は、ただの戦争好きではありません。

本来の将軍は、心優しき勇者で、国や民のために奔走します。東に敵が攻めよせたら、東に軍を集めてそれを防ぎます。そうしている間も、西の備えも怠りません。そうして絶えず注意して、国土や民を守ろうとします。そういう思慮深さ (謀慮)  と、緊張した性格を持っています。これは免疫に相当します。

ストレスがたまる…つまり過度に緊張状態が続くと、免疫が落ちるといわれますが、東洋医学では昔から知られていたことです。肝臓を治療すると、なんとなく気持ちが落ち着き、集中力がつき、すがすがしくなります。こういう状態に持って行くと、癌などの難病でも進行が止まる。…つまり免疫が癌細胞を包囲し、増えなくするのです。

こういう臨床事実から、肝臓の治療方法が工夫され、肝臓の性格というものの分析が進んだのでしょう。

軍事力の集中

具体的に、肝臓はどう働いているのでしょうか。

将軍はここぞという時、普段は備蓄して使わない軍事力を総動員します。また「条達」という道を使いながら、ある場所に軍隊を集中させます。

たとえば「火事場の馬鹿力」です。火事だ! となれば、普段持ち上げられない重い物を持ち上げられ、普段は出ないようなスピードで走れたりします。後になって疲れは来るでしょうが、火事を何とかするために、一時的に筋肉に力を集中させるのです。

カゼを引いた時、喉にはウイルスが増殖します。将軍は、これをやっつけるため、条達という道を通って、白血球を総動員させます。もてる力 (気=機能) を抗ウイルスのために集中させるため、筋肉には力が足りなくなり、体がだるくなります。すべて元締めは、将軍である肝臓です。

もしも、です。もしも、この将軍が狂った人だったら…。

将軍の暴走

考えただけでも恐ろしいですね。ウイルスを攻撃せずに、骨を攻撃し出したらどうなるでしょう。これがリウマチです。体の大切な組織を深い考え (謀慮) なくランダムに攻撃したら?

条達という道を使えば、将軍は軍隊をどこにでも動員できます。全身性エリテマトーデス・ベーチェット病・潰瘍性大腸炎…その他もろもろの膠原病…つまり免疫異常疾患は、すべて、この将軍が狂ってしまったからです。

アレルギーもそうです。花粉・ハウスダスト・小麦などは、そもそも人体に無害の物質です。これを敵とみなしてしまう。免疫が発動し、鼻水を出して、なんとか洗い流そうとする。皮膚をかきむしり、なんとかはぎ取ろうとする。将軍の暴走です。

免疫とはそもそも…

実は、免疫は、西洋医学の概念ですが、分かっていないことが非常に多い機能です。

例えば、神経系…くわしくいうと、呼吸器系・循環器系・運動器系などは統率者がハッキリしてますね。脳です。

ところが、免疫は脳の支配下にはない。では、免疫を統率しているのは何か。これが分かっていないらしいんです。免疫学の世界的権威の多田富雄先生は、「健康人において、免疫が一糸乱れぬ統率性を保っているのは、逆に不思議なくらいだ」と、おっしゃっているくらいです。 (多田富雄「免疫の意味論」2006 青土社)

免疫なんて、いつ暴走してもおかしくないのに、なぜ暴走しないんだろう、不思議だ、と言うんです。だから、西洋医学では、免疫の暴走を正す治療ができていません。免疫抑制剤をつかって、つまり体力のレベルを落とすことによって、病気を抑えているに過ぎません。

免疫は機能です。物質科学が基礎の西洋医学では、解きにくいのでしょうか。しかし、東洋医学は、肝臓と言う概念を持っています。

この免疫学の先生は、さらに興味深いことをおっしゃっています。
「人の本質を突き詰めると、それは身体ではない。動きだ。」
免疫ほどの機能 (=気) 的分野を専門に扱う先生には、そう見えてくるのでしょうか。東洋医学の「気」の概念に非常に近い視点です。
気とは働きのことです。

≫「東洋医学の気って何だろう」をご参考に

太陽 (自意識) と木 (無意識)

肝臓には「木」「将軍」としての横顔がある。
木は太陽 (自我・自意識) の影響をうけ、太陽の動向次第 (自意識としてのストレスなど) で狂うこともあり得る。

このような肝臓の性質を古人は「魂」とも表現しています。魂とは何でしょうか。これも東洋医学の言葉です。簡単にいえば、魂とは「無意識」です。

まとめると以下のようになります。

◉正常な太陽(君主・自意識)のもとで、将軍 (無意識) は名将として、国や民のために軍事力を発動する。
◉異常な太陽(君主・自意識)のもとで、将軍 (無意識) は狂人として、自分勝手に軍事力を発動する。

 

]無意識とは、難しい概念ですね。分かりやすくするため、「無意識」がどういうところで見られるか考えてみましょう。

魂 (無意識) と自律神経

例えば、消化吸収。これ無意識です。自分で何とかしようとしても、体が勝手に動いています。呼吸。これもですね。もちろん、免疫もです。その他、心臓の鼓動。睡眠。排便。体温調節…。

ん? これって自律神経ですよね。そう、魂は自律神経の働きをイメージすると分かりやすい。もうすこし正確な定義づけをすると、生命のオートマチックな機能のうち意識できないもの、と言えます。

自律神経を調整するには、魂 (肝臓) を治療すればいいのです。例えば心筋梗塞の患者さんは、常に不安と言うストレスを抱えています。肝臓を治療するとストレスが和らぎ、自律神経の影響下にある心臓も回復しやすくなるのです。

魂 (無意識) と感情

無意識が関わるのは、自律神経ばかりではありません。例えば、美しいと思う心。けがらわしいと思う心。人をいとおしいと思う心。なんだか憎たらしいと思う心。それから直感。すべて無意識つまり魂です。魂は「こころ」の無意識でもあるのです。

太陽 (自意識=価値観) の動きに従って、木 (無意識) は形や伸びる方向が変化します。考え方次第で、その人の持つ雰囲気 (=ひととなり) が変わってくるのです。

鍼を打ってどこに効くか、それは間違いなく体です。しかし、体の無意識 (自律神経) は、心の無意識につながっています。体調が何となくいい時、心まで素直に優しくなれるのは、無意識の部分でつながっているからです。そのため、東洋医学は五神 (こころ) をも治療することができるのです。

体から心に。…その逆も言えますよね? 心が何となく楽しい、笑みが自然とこみあげてくるような時、体も喜んでいませんか? これは「条達」という言葉でまとめることができるでしょう。条達とは「木のように、上にのびのびと伸びてゆく、自由闊達さ」でしたね。上だけではありません、根っこも下にしっかりと張りながら。

上滑りな伸びやかさではなく、基礎をしっかりと持った伸びやかさですね。
気と血の陰陽関係でいえば、「血」をしっかりと持った「気」です。
肝と腎の陰陽関係でいえば、「腎」をしっかりと持った「肝」です。

精魂

腎は精を蔵し、心は神を蔵し、肝は魂を蔵します。精神・精魂という言葉は、腎臓という根っこを強く意識しています。これが体の健やかさ、心の健やかさと大きく関わるのです。

≫「東洋医学の腎臓って何だろう」をご参考に。

 

あらゆる病気と肝臓

さて、体の無意識に関わる肝臓ですが、これが異常を起こすと、色々な不具合が出ます。免疫・睡眠・消化吸収・心拍・呼吸・体温調節・痛みなど、あらゆる病気です。ストレス (自意識) が自律機能 (無意識) に影響したものが大半です。

ストレスによって条達ができないと、伸びやかさが失われるわけですから、流れの淀んだところにゴミがたまるように、副産物がたまりやすくなります。気滞・湿痰・瘀血・邪熱です。これら副産物が生命力を弱らせると、あらゆる病気の原因になります。

こういった副産物が一か所に集まってしまうと恐ろしい病気になります。癌です。癌も例外ではなく、肝臓に深くかかわります。癌にならない秘訣は、条達なんですね。ゴミが出来ても外に流れていけばいいんですから。

ストレスが原因とは限らない

ところが、「私、ストレスなんか無いよ」と言う人がいます。その人が健康なら問題ありません。でも、あちこちつらい、病院通いが忙しい…となると話は別です。あらゆる病気は肝臓が関与すると言いました。ストレスがないなら、なんで病気になるのでしょう。ストレスがないのに、肝臓が狂うことがあるんでしょうか。

ここで、思い出してください。長嶋さんは、心の太陽が光を失ったために「肝木」に異常が出た。ストレスとは、まず自意識で感じ、それが無意識 (肝臓) に影響して、体に障害が出るものです。

心の太陽が光を失った、と表現しましたが、実は正しくありません。太陽が誤った方向から木を照らした、というのが正解です。「勝たないと日本にいられない」…という不自然で強い光を放つ自意識が肝木の条達すべき方向を誤らせた。だから、木は誤った方向にむかって枝を伸ばしたのです。異常な条達は、人体の上部である頭部に異常なアクションをおこした。とすると問題は、ストレスではなく、心の太陽が照らす方向…。

気づけない「誤った条達」

そうなんです。だから「自分だけが正しい」と思いこんでる人、こういう人にはストレスはありません。でも、その思いが自然の理法に反しているため、太陽は誤った方向から肝木を照らします。もちろん、肝木はあらぬ方向に枝を伸ばすでしょう。その思いが強ければ強いほど、です。肝臓が狂うのは、ストレスが原因とは限らない、ということです。

例えば、人のものを盗んでしまった。そしたら、ふつう気分が良くないでしょ? ストレスですよね? でも、なんとも思わない人がいる。盗みの何が悪い。別にいいじゃないか! こう思い込んでる人もいる。ストレスに感じようが感じまいが、この人たちは、いずれ体調を崩すでしょう。魂を傷つけたからです。無意識を傷つけたからです。肝臓を悪くするからです。

ストレスに気づけない…本来ストレスであるはずが、それをストレスと感じない…人間の心理の奥深さです。東洋思想は、ここまで考えてきました。人の体と心を臨床というまな板の上で解剖してきた。だから、西洋医学が難病とするものに立ち向かう術を持ちます。

長嶋監督が「負けたら日本にいられない」と、お考えになったことは、間違っています。負けたって、誰が監督を責めますか? 責められますか? もし、そんな奴がいたら、国民みんなでやっつけてやればいいんですよ!

あれ? 僕の肝臓も間違った方向に条達しかけてる?

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