舌下神経麻痺…あわや脳梗塞

診察

「どうされましたか?」

「4日前に、夕食で舌を噛んでしまって…。それから口内炎ができて、食べにくいし、しゃべりにくいんです。」

「舌を見せてください…。あれ? 舌が歪んでますねえ。口内炎はここか…。うーん、これは…。」

脈を診る。数十時間以内に、体に大きな異変がおこる予兆を察知。
「舌が左側に大きく曲がっているんですよ。このような舌を「偏歪舌」というんですけど、脳梗塞の前兆である場合も考えられるので、注意が必要なんですよ。口内炎で食べにくいんじゃなくて、舌が曲がっているから舌をかむんです。」

「悪い病気なんですか?」

「いや、これから治療して、未然に防ぐから大丈夫。」
左右の太衝に、手を当てると、左右のツボの反応が約5秒ごとに入れ替わる。あまり見られない現象だ。肝がそうとう不安定になっていると診てとる。

「なんか、大きなストレスとか、ありませんか?」

「いやー、ストレスですか…。さあ…。夜寝るのが遅くなるんですけど、これもストレスというでしょうか?」

「もっと早く寝たいですか?」

「寝たいです…。けど、孫の塾の送り迎えをしないといけないんで…。孫が帰るのが10時半になるから、それから後片付けすると、12時は回るんです。」
ストレスらしきものがないというのが本当なら、太衝の反応は睡眠不足が原因か。

初診の治療

神闕 (おへそ) 中心に夢分流打鍼術を行う。
脈を確認すると、先ほどの異変の前兆は消えている。

「これで大丈夫ですよ。ただし、今から24時間は、気の張ることは避けること。後日に回せることは、後日に回して、ゆっくりすることを心がけてください。それから、睡眠不足が体にかなり影響している可能性がありますから、ちょっと確認しますね。」
脈診で確認。現行の就寝時間では悪化、10時に就寝すべきとの判定が出る。

「やっぱり睡眠不足が大きいと思いますね。いま、悪化直前の状態を、鍼で通常の状態にもどしました。ただし、睡眠を改善しないと、また悪化直前の状態に戻ります。3日間は10時に寝てください。それが無理なら今日だけでも10時に寝てください。」

「そんな悪いんですか。」

「〇〇さんは過去に3回も突発性難聴をおこしてるでしょ。普段から突発的な喉の強い炎症も起こしておられる。もともと頭部に異変が起きやすい。今回はちょっと気をつけた方がいいです。」

2診目 (1週間後)

「特に変わったことはありませんでした。治療していただいた日は、がんばって10時に寝ました。」
舌のゆがみは変わっていない。脈診は悪化の前兆なし。太衝の左右の入れ替わりはなく、肝は安定してきたと見る。

「前回は脳梗塞の可能性もありましたが、もう大丈夫です。ただし舌のゆがみは残ってますね。舌下神経麻痺で落ち着いたと言っていいです。今日は舌下神経麻痺の治療をやっていきますね。」

舌下神経麻痺

舌下神経麻痺という病名はあまり聞かないが、顔面神経麻痺ならご存知だろうと思う。舌下神経も顔面神経も、脳から直接出た神経で、脳神経という。これらの神経麻痺と脳卒中は、東洋医学的には同じ種類の病気として扱う。重症度が違うだけなのだ。

肝・腎の陰が虚の状態と診断。陰という正気が虚になる (少なくなる) と、熱がおこる。陰には冷ます働きがあって、それができなくなるからだ。この人の場合、慢性的な睡眠不足が陰 (休息・静止) の不足につながっている。

熱がおこると風がおこる。これは自然界の現象だが、人体にも同じ現象がおこると考える。熱による風は上に舞い上り、風という不安定で移動しやすい性質をもつ病変として現れる。たとえば麻痺・震え・痙攣などは、風 (ふう) が原因として疑う必要がある。

陰の不足は舌にも表れており、舌の左側の根元に直径1センチほどのハゲがある。陰が補われたら、コケがはえてハゲがなくなるはずた。

早めに床につくよう指導を行いながら、肝と腎の陰を補う治療。左照海に鍼。

3診目 (1週間後)

少し歪み方がましに見える。舌のハゲは境界線がぼやけてきた。できるだけ早く床につくようにしている、とのこと。ドライアイの目薬を常用しているので、止めるよう指導する。目薬などで疲れをゴマ化さず、目がつらいなら目をとじて疲れをとるべきだと諭す。

左照海と百会に鍼。
前回同様、照海で肝腎を補い、風(ふう)そのものを取り去る百会を加える。

4診目 (1週間後)

舌がまっすぐ伸びるようになった。舌のハゲは完全に消失。食べにくさ、しゃべりにくさ、なし。

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