「 (小声) 先生、となりの方、よくねておられますね。」
「そうですね。」
「気持ちよさそうやなあ。わたしも、お昼は横にはなるんですよ。でも横になるだけ。」
「寝られないんですね?」
「そう。」
「寝たいのに?」
「そう。ずっとそうなんです。」
「ぼくね、最近、感謝の練習をよくするんですよ。」
「プッ…練習ですか?」
「そう。そしたらね、すぐ眠くなって、居眠りしてしまうんです。まあ、目が覚めたら元の黙阿弥でね、感謝の心はどこにもなくなってしまってるけど。でも体ははスッキリしますよ、寝たから。」
「ははは」
「他の人はどうか知りませんよ、でもぼくはね、『感謝しよう、感謝しよう』と思っても、無理なんですよ。できない。」
「そんなことないですよ。先生は、できておられるんでしょ?」
「いや、ぼくなんか相当なもんですよ、口ばっかりで。」
「先生がそんなこと言ったら、私なんかもっとですやん。」
「それでね、思っていても無理なんで、ずっとやってたのは、暇さえあったら『ありがたい、ありがたい』って言うこと。思えなくても、言うのは簡単でしょ?」
「なるほど、お医者さんの本を読んでも、『感謝が大切』ってよく書いてありますわ。病気が治りやすくなるって。」
「そうそう、そういうことなんです。『感謝力』っていう言葉もあるみたいですね。それでね、それをやっていてね、以前よりは、かなりマシになった。けど、どうも自分の力だけでは、徹底しないことに気づいた。でね、最近、別の練習方法を取り入れてみた。」
「どんな?」
「自分の力に頼らず、まかせた方が感謝しやすい時があるんですよ。」
「まかせる…」
「たとえばね、自分の力ではコントロールできないものがある。例えば天気。太陽や雲をどうこうすることはできない。」
「そりゃ、そうですね。」
「つまり、僕より偉いんですよ、太陽は。言うことを聞くしかない。僕なんかより、ずっと上。だから、まかせていいんですよ。」
「ふーん…」
「他力本願っていう言葉、ご存知ですか?法然上人が有名ですよね。南無阿弥陀仏って唱えているだけで救われるっていう教え。これは当時としては、すごく斬新な教えだったんですよ。誰でもいつでも簡単にできるっていうんで。この他力本願の真髄は『貴方様にすべておまかせします』っていう気持ちなんですね。これが大切なんだろうと思う。僕の場合、感謝しよう感謝しようと何ほど思っても難しい。だから、言葉に出して努力した。これ自力。因みに禅宗は自力本願らしいですね。これも大切なんです。でも、おまかせしますって気持ちになると、なんとなく、自然に感謝の気持ちが湧いてくることがあるんです。これが他力なんですね。自力と他力は両方必要なんです。」
「へえ…」
「そしたらね、とっても気持ちよくなって、眠くなる。体にいいわけですよ。」
「わたしは、感謝の気持ちが足らんのやわ。」
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