肩こりの弁証論治

67歳 女性。

主訴…
首・肩のこり。どちらかというと左が強い。

もともと肩こりはあるが、半年前に血圧が高くなり、体調を崩してからさらにひどい。
原因はストレス。降圧剤を服用している。
血圧が高くなってから肩こりひどく、不眠、疲れやすい。
10日前に締め付けるような胸痛。
だんだん体調が悪くなっている。何とかしてほしい。

他の症状…
目が充血しやすい。
足が冷えるとのぼせ、頭が痛くなる。
夕方・週末が疲れやすい。
夜間尿なし。
食欲あり。食後の眠さなし。

舌診…
紅舌。白膩苔。老。舌尖紅刺。

背候診…
心兪・膈兪の左右差が強い。ともに左が虚中の実。右が実中の虚。邪の絶対量はL>R。
聞くと、ケアマネージャーをしているので、常に緊張している、とのこと。自宅でもいつ電話がかかってくるか分からない状態。

局所…
首、肩も背候診と同じく、左が虚中の実、右が実中の虚、邪の絶対量はL>R。首の左右に指をあてると、右が固く膨れ上がり、左はへこんでいる。左右差は歴然。これがそろえば気は勝手に下がり、楽になるはず。

腹診…
臍に手をかざすと有力。瀉法が適応。
空間は左上。
天枢・肝相火ともに左実。消長の準備ができた状態。

脈診…
左右ともに沈弦。女脈。幅あり。表証なし。右関上枯脈。

診断…
諸侯から受けるのは、オーソドックスという印象。
触診において、嫌な感じのする邪気が見当たらない。
正攻法で、正気が邪気に十分勝てる状態といえる。
ただし、臍が有力で瀉法が必要ということは、邪気の量は比較的多い。勝負を早くつける必要がある。

肝の病証であることは間違いなく、上に気の上昇があるので、肝陽上亢もしくは肝気上逆が考えられる。
瀉法適応の実証なので、肝鬱気滞から気逆をおこした、肝気逆証といえる。
また、肝鬱気滞が重症化して心気滞を引き起こし、狭心症が起こっている。

と、ここまでは比較的簡単。
問題は配穴だ。

まず、肝の相火に注目。左の実。
原穴を探る。胆経に関わる穴処 (丘墟・臨泣・合谷・後渓) はすべてこれに呼応するように実。結果的にこの肝相火を取ればいい。

左右が整えば上下は自ずと整う。なぜか。左右にぶれていないものは、すべて重心が整っている。重心が整う=臍下丹田に気が集まる。そういうことだ。左右はそれほど大切。

肝相火に触れる。生きた反応は無い。ここに鍼をして左右を整えるのは難しい。
空間が左上なので、左上の穴処を探る。左百会に生きた反応。左右の百会を比較。左実・右虚。

全体を俯瞰してみる。
胆経にかかわる穴処は、左百会・肝相火をはじめとしてすべて左側が実。
背候診も、左の方が虚中の実ながら、左が実。
天枢も左が実。

左百会を瀉法すると、まず、体の側面を流注する胆経の左右が整うだろう。
その影響は体の前面 (天枢) と背面 (背部膀胱経) にとどき、その左右も整うはず。
その影響の延長線上に、主訴である首・肩のコリがある。

処置…
左百会瀉法。5番鍼を7分間置鍼。

効果…
抜鍼後、肝相火を診る。右実。左右が反転している。
そのまま20分横になっていてもらい、瀉法で狭くなった陰陽の場の回復を待つ。
その回復中に体の左右がヤジロベーのように揺れながら、やがて整う過程をイメージしつつ。

再度肝相火を診る。左右が整っている。
天枢を診る。やはり整っている。
心兪・膈兪の反応は…左虚中の実が浮いて、右の表面の硬さは緩み、左右が整う。

首・肩の反応は?
ことさら鮮やか。
緊張は大きく緩み、左は力が出、右のしこりはどこにも見当たらない。

「肩・首、今どうですか? やはり凝った感じがしますか?」
「え? えーっと…あれ? 今は何も感じません…」

追記:
本症例は、かなりオーソドックスなものです。しかし、これがいつまでも続くわけではありません。初診時では、本症例のように、よく効く患者さんは少なくありません。問題は、ある程度治療が進んで、おおざっぱな症状が取れてきたとき。その時期になると、治療が効きにくくなることが多くあります。

なぜ初診は効きやすく、治療が進むと効きにくくなるのか。初診は陰陽のアンバランスを何とかしようと体が頑張っていることが多く、それに比べ、治療が進むと、陰陽のシーソーが悪いなりに平衡してきて、動く幅が少なくなるからです。

そういう、先のことも頭に置きながら、本症例も治療を行いました。必ず治療が効きにくくなる時が来る。その時、どういう一手を打つか。

正攻法だけでは手が詰まってしまうかもしれません。今の知識と技術で対応できるか。その一手が的確なものなら、また効きだします。陰陽が大きく整いだします。初診に驚くような効果が得られた時のように。そのためにも、工夫をこらし、新境地を開拓し続けなければ。

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