関元と桂枝茯苓丸

女性。30代。

5か月前から継続して治療している患者さん。
主訴は恐怖感。パニック障害。
肝鬱気滞>肝気虚 (脾気虚) …として治療してきた。
肝鬱に気虚を挟んでいる。

病状は改善しつつあるが、1か月ほど前から気になることがある。
気になることがあると感じているのは、患者さんご本人ではなく、ぼく。
患者さん本人は、怖さがましになり、行動範囲も広くなってきた、とおっしゃっている。
で、ぼくが、何が気になるかというと、脈。
脈の幅が、ここ最近、細い。
以前は瀉法を加えられるほど余裕があったのに。
しかも、冷えの影響を受けている脈が、たびたび見られるようになった。

脈幅がないというのは、体調の悪い人にはよくあること。
しかし、もともと脈幅がある人が、治療を重ねるほどに幅がなくなってくるとしたら、これは悪化だ。
この状態が長く続けば、いずれ症状の悪化が現れる。

「何か、変わったことはないですか?」
「そういえば、最近、下半身がだるいことがあります。」
腎臓に負担がかかった時に出る症状だ。
いつごろからか詳しく聞くと、脈が細さが現われはじめたころから。

治療に問題はないはず。
患者さん自身に聞いてみても、特に体調を崩すようなことはなさっていない。
なんだろう。

思い当たる節があるとしたら、1か月前から飲んでおられる漢方薬。
桂枝茯苓丸というお薬だ。
これは瘀血を下す働きがある。
瀉法に効く薬。
証があっていなければ、もともとある気虚を悪化させる可能性がないとは言えない。
気虚がひどくなると、恐怖感が強くなる。
主訴が悪化してしまう。

たしかに、瘀血を示す少腹急結は左に見られる。
しかし、桂枝茯苓丸処方後、この少腹の緊張は不変。
緩んできていれば桂枝茯苓丸が効いてきている可能性もあるが…。

また、黒っぽい大便も下っていない。
瘀血が下れば、黒く艶のある大便が下る。
すると体調が良くなる。
実は、桂枝茯苓丸が処方されて以降、黒い大便について聞いてきたが、一度も下っていない。
それどころか、やや便秘気味。
桂枝茯苓丸が、瘀血を下すことに効いておらず、正気を弱らせる面のみに効いているとしたら…。

とにかく、桂枝茯苓丸が処方されてから、脈が細くなったのは事実。
とうぜん、鍼治療では、もう瀉法はできないし、やってない。

「もしかすると、桂枝茯苓丸、やめた方がいいかもしれません。」
と、いいたいところ。
しかし、事情があって、それが言えない。
言い切るだけの信念もない。
これは苦境だ。

もし、桂枝茯苓丸で悪化しつつあるとするなら、鍼でそれを最小限にとどめなければ。
しかし、治療としては、それは非常にやりがいが無い。
良くなってもらわないと、甲斐がない。

まて。
この苦境を、逆に利用できないか?
そう、ピンチはチャンスっていうやん!

少腹急結はあるにはある。
ただ今は、それが取れるほどの体力 (正気) がないということ。
では、それを鍼で補ってみよう。
桂枝茯苓丸を、殺すのではなく、生かす!
瘀血が下れば下ったで、肝鬱気滞が治療しやすくなる。
最近得た理論を使えば、できるかもしれない!

脈幅ナシ。
左滑肉門に触れると、触れているのが苦しく感じる邪がある。
しかも、右滑肉門に比べて左は虚。
正気と邪気が拮抗し、邪気が取れにくい。

にもかかわらず、陰陽の場そのものが小さいので、余計に邪気をとりにくい。
下手に補うと、正気とともに邪気も増えてしまう。
正気が増せば邪気が減る…という消長関係が引き出せない。

オマケに、肝相火の反応は左右がそろっている。
正確に言えば左が実中の虚、右が虚中の実。
左右の邪の絶対量は同等。
胆経が機能していないので、消長できない。

二重の意味で消長できない。
しかも陰陽の場が小さい。
場が小さいということは、正気だけでなく、邪気の絶対量も少ないということ。
しかも正気の量=邪気の量。
これは、八味丸証を思わせる状態だ。

この小ささを逆に利用する方法を最近考えた。

任脈という左右の境界を使うことで、左右を動かす。
関元だ。
左右が動けば、正気は助かり、邪気は弱る。
この正気の一分の利が、陰陽の場を増やす際に生きてくる。
正気が邪気に対して優位を保ったまま、場を増やす事ができるからだ。
それができれば、消長は勝手に行われる。

この日は、関元に5分置鍼、20分休憩後、治療を終えた。

その4日後、来院。
脈を診ると、幅がある。
前回の治療 (関元の鍼) が持続している!

幅があるということは、少陽枢機が働いているということだど考えている。
少陽枢機が働けば、自然と陽明の闔も機能し始める。
闔は大小便として邪気を下す働き。

通じを聞いてみると、
「黒いのが出たんです。悪い病気じゃないかと不安で…」
「え? 黒いのが? それ、瘀血が下ったんですよ! すごくいいことですよ! 前から気にして聞いてたでしょ?
桂枝茯苓丸は瘀血を下すお薬だから、黒い大便が出るかもしれないって。」
「でも、ずっと桂枝茯苓丸を飲んでいても、今まで何ともなかったのに…」
「こないだの治療の時言ったでしょ、桂枝茯苓丸を、鍼で効くようにするって!」

少腹急結は、明らかに緩んでいる。
瘀血が下ったとみて、間違いない

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