ピロリ菌…賛否両論に一石

ある患者さん (70代) 。持病として耳鳴りを持っておられ、ここ数年は完全に治まっていた。ところが、この耳鳴りが急にひどくなったと言い出した。もともとストレスで耳鳴りが増していたので、ストレスを疑ったが、特にない。変わったことといえば、直前にピロリ菌除菌を行ったということくらい。結局この耳鳴りは一カ月続いた。

ピロリ菌を除菌するには、当然、抗生剤を飲む。そもそも抗生剤は、東洋医学的脾臓を痛めることは、臨床経験からよく知っている※。脾臓が弱ると、シーソー関係が働き、肝気が高ぶる。肝気が高ぶると東洋医学的腎臓に負担をかけながら気が上に昇って耳鳴りとなる。この患者さんは、そういう機序で耳鳴りが起こった可能性がある。

※ 腰痛の患者さん (50代) で、炎症の数値が高いため入院、抗生剤の治療が始まった。それと同時に食欲がなくなり、まもなく体力がなくなって立てなくなり、退院できぬまま半年後にお亡くなりになった。メールで連絡を取っていたので、まちがいない。入院するまでは、自分で20分かけ車を運転して、治療に来ておられた方なのに。もともと、脾臓が極端に弱かったので、特殊な例ではあるが。

 

本当に、除菌する価値があるのだろうか? 「ピロリ菌 必要性」というキーワードで検索してみると、賛否両論だ (当時) 。癌や潰瘍の原因になるので必要だ、という意見。一方、ピロリ菌が原因ではないから意味がない…など色々な記事がある。しかし、それら反対派の記事に目を通して、ある重要な視点が欠けていることに気づいた。

バウムクーヘンの外側と内側

そもそも、人間の体は、バウムクーヘンのような分厚いチューブのようなものである。口から肛門につながる穴があるからだ。高校の生物を勉強した方は、受精卵から細胞分裂して、しばらくすると管状のものになることを記憶しておられるだろう。皮膚も腸壁も、細胞の分類では、おなじ上皮細胞である。

外側と内側にそれぞれ壁を持つチューブ。そのチューブの外側は空間であり、チューブそのものではない。同じように、チューブの内側も空間であり、チューブそのものではない。

人体というチューブの外側には何があるか。そこには地球空間が広がり、ライオン・シマウマ・昆虫・植物などの多様な生物が、生態系をつくっている。

腸内にも生態系

では、チューブの内側は? これも同じく、多種多様の細菌が住んでいる空間がある。ここには、植物・動物から作った断片 (料理) が充満し、それを食物として、多種多様な微生物が暮らしているのである。体に良いとされる乳酸菌 (ビフィズス菌は乳酸菌の一種) 、病原菌として耳にする大腸菌など。

ウィキペディア「腸内細菌」の頁には、「 (腸内には) 約3万種類、1000兆個が生息し、1,5kg~2kgの重量になる」とある。われわれには、こんなに多くの同居人がいたのである。水たまりにも生態系があると言われる中、腸内が一つの生態系をなしているという考えを否定する科学者はいないだろう。

地球環境と同じように、腸内環境も、持ちつ持たれつなのだ。善い菌も悪い菌も共存する中でバランスを取り、悪い菌が増え過ぎないように調節をしている。

昔からの共存者

日本人は昔から、梅干し・ヌカ漬け・味噌などで上手に善玉菌を取り入れてきた。逆に、腐ったものを食べれば悪玉菌が増え、腹痛を起こし、下痢で洗い流す。そして、「こういう食べ物は避けた方が良い」と学習してきた。

これは悪玉菌が増えてくれたおかげでもある。そう考えると、善玉も悪玉も関係なく、不要なものなどない、という考え方ができる。

そもそも生態系に不要なものなどない。人を襲うライオンは不要だが、家畜は食べられるから必要…という考え方はおかしい。ピロリ菌を含む腸内の細菌は、人類の起源と同じ歴史をもつ共存者であり、ライオンやシマウマ・昆虫・植物と、何ら変わらない。

力ずくは裏目に

特定の種を絶滅させようとして、生態系を人為的に操作すると、しっぺ返しを受ける。

沖縄にマングース

ライオンが人や家畜を襲うからと言って絶滅させてしまうと、草食動物が増え過ぎ、草原の草がなくなる。近年のイノシシの急増は、天敵であるニホンオオカミを絶滅に追いやったことが原因であるという話もある。外来種のオオカミを導入ということも考えられるが、豊富なイノシシをエサに、オオカミが増え過ぎるという心配もある。

沖縄で、ハブを捕食させるためにマングースを放ったところ、ハブを食べずにヤマネコなどの希少動物を食べ、マングースの数が急増、計画は裏目に出ていることも大切な教訓だ。

森林伐採による水害

森林破壊が、地球温暖化をもたらし、地球規模で砂漠化が進んでいることは、よく知られている。偏西風を穏やかにしていた森林の壁はなくなり、pm2.5のような有害物質の飛散の原因となっている。

もっと身近で深刻な例だと、近年の豪雨による土石流だ。森林破壊が大きな原因となっていることは疑いようがない。

森林が減少することにより、二酸化炭素が増加、結果として地球温暖化は気象の寒気と暖気の極端化を生み、我々が経験したような豪雨を頻繁にもたらすようになった。山林を伐採して開発された住宅地。その土壌は、本来持っていたスポンジのような保水性を失い、我々の生活空間に牙をむく。

人間のエゴで破壊された森林を元に戻すのは予想以上の時間がかかると言われる。

スギ・ヒノキによる自然林の崩壊

戦後の全国的植林で、スギやヒノキという特定の種 (しゅ) のみを増やし保護した。人間に都合がよいと思われた雑木の伐採と針葉樹の植林が、花粉症の原因となっていることを知らない人はいないだろう。

だが、懸命に植林していた当時、今のこの状況を予想できた人がいるだろうか。特定の種のみを人為的に増やそうとするのも、生態系の破壊である。

耐性菌とイスラム国

一度崩れた生態系を元に戻すのは難しい。今日の中東情勢も、ある意味で生態系を破壊した結果として捉えることができる。アメリカのブッシュ大統領は、当時のイラク政権を殲滅したが、それがイスラム国 (IS) をはじめとする中東情勢の乱れを生んだと言われる。

フセインという人物を消すことによって、かえって悪玉因子が増殖したという意見だ。

近年、問題になっている耐性菌 (抗生剤が効かない菌) は、これと実によく似ている。抗生剤 (イラク攻撃) の乱用によって生まれた耐性菌 (反アメリカ勢力) は、増加の一途をたどり、想像以上に深刻な問題らしい。近い将来、抗生剤が全く効かなくなる時代が来ると言われている。

もし、それが本当なら大変なことで、簡単な手術さえ大きなリスクを伴う。再生医療がいくら発達しても、手術ができなければ、どうにもならない。

生態系の奥深さ…ナホトカ号重油流出事故から学ぶ

生態系を守っていると、困った時に助けられることがある。1997年の日本海で発生したロシアのタンカー沈没による重油流出事故 (ナホトカ号重油流出事故) で知ったのだが、海には重油を分解する細菌が住んでいる事が分かってきたらしい。

よく、そんな細菌が生きていたものだ。普段は何を食べているのだろう…。いやいや、感心すべきなのはそんなところじゃない。重油が大量に海に流出するなどということを、地球という星は想定していたのだろうか。こんな細菌を海に住まわせておくとは、びっくり仰天の手回しのよさなのだ。

とにかく、それほど自然環境は奥が深い。腸内にも、存在が知られていない未知の細菌がいるはずだ。だが、もし、そんな想定外で優れモノの細菌がいたとしても、ピロリ菌の除菌で一緒に殺されてしまう可能性もある。

自然への畏敬の念

多種多様さが、自然なバランスを取って上手く機能している大自然。経済学にも「神の見えざる手」という言葉があって、経済バランスは自然に取れるという概念がある。

自然は人智を超えたものだ。

人間が自分勝手な操作を自然に対して加えたとき、自然はそれを決して許さない。自然への畏敬の念の欠如が、自然の怒りを買う。そういう視点こそ、我々が「環境」と長く良い関係を保つ上で大切なのだろう。大自然が、人間の腸内にもあるとしたら、再考の余地は十分にある。

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