痩せる鍼…耳ツボの是非を問う

「耳のツボで痩せる!」 そんなキャッチコピーを目にすることがありまね。 耳ツボは1956年にフランス人の神経科医ポール・ノジェが提唱したもので、3000年の歴史を持つ東洋医学では、かなり新しい部門であり、ヨーロッパという異国で起こった考え方です。食欲を抑える効果が認められることは確かにあり、それだけに注目を浴びるのは当然のことと言えます。

病名診断はダメ

本題に入る前に…。東洋医学とは何かについて再確認しましょう。東洋医学では、「証」と呼ばれる体質を診断、確定して、その証に効くツボに鍼を打つ…というのが本当です。本来行うべきこの診断を「証診断」と呼びます。

でも、例えば頭痛なら、頭痛に効くツボは〇〇だから、そこに鍼を打つ…と考えますよね。これは「病名診断」と呼ばれます。

病名診断は、西洋医学では非常に重要です。西洋医学では、病名を確定して初めてそれに対する治療を行います。しかし、東洋医学はそういうシステムではありません。西洋医学の診断で出した病名を、東洋医学に当てはめるのは無理な話ですし、東洋医学の証診断を西洋医学に当てはめるのも無理です。

東洋医学の鍼や漢方薬を使って治療するならば、病名診断は絶対にやってはならない事です。病名診断による治療をもし続ければ、いずれ体を悪くしていきます。証を考えていないからです。

分かりやすく言うと、頭痛を止めることが目的になっており、頭痛の原因を治すことが目的になっていないからです。そういう治療をいつまでも続けていると、当然、治療が体質 (証) に対してデタラメになります。

デタラメな治療は、効くこともあるかもしれませんが、悪化させる危険が多くなります。目隠しをして手術したらどうなるかです。

症状はそれなりに取れる…でも、体質は悪い方向に…そんなことになる可能性が非常に高くなります。もちろん、病名診断で行った治療が、たまたま体質 (証) に合うこともあります。でも、それはあくまでも、たまたまです。

症状のみを取ろうとする治療は危険です。詳しくは
「スポーツ鍼灸と東洋医学的鍼灸…長所と短所ここが違う」をご参考に。

小柴胡湯事件

〇〇病に✖✖が効く…。この病名診断は、病院の漢方処方でも横行しており、批判的ニュアンスを込めて、「病名漢方」と呼ばれます。

たとえば、「カゼに葛根湯」など。最たる例は小柴胡湯事件です。かつて、「肝炎に小柴胡湯」という病名診断が、全国の病院で行われていた時代がありました。その結果、間質性肺炎で患者さんが次々に亡くなるという事態が起きます。「小柴胡湯の副作用」として大きく報じられ、現在では、小柴胡湯を重症肝炎の患者さんに用いてはならないというマニュアルが出ています。

まったくバカらしい分析です。小柴胡湯という東洋医学の手法を、病名診断という西洋医学の診断法で処方したために、体質 (証) に合わない人が亡くなってしまった…。漢方薬の使い方を知らなかっただけのことです。

これは副作用とは言いません。素人による薬の乱用です。これを体の悪い人にやったら、悪化して当り前です。西洋医学しか知らない人が、東洋医学の漢方薬をどうやって運用し、分析できるというのでしょうか。

しかも、そこから学んだ戒めは、「肝炎に小柴胡湯はダメ」というマニュアル。これも病名診断であり、東洋医学を学ぼうとしない風潮が今も存続する証拠です。

残念なことに、鍼灸院でも、多くがこの病名診断をもとに、治療が行われているのが現状です。例えば坐骨神闕痛で第4・第5腰椎の神経根が圧迫されていると西洋医学で診断されたとき、第4・第5腰椎の局所に鍼を打つなどです。また、肩が凝ると言えば肩に、足がだるいと言えば足に鍼を打つなども、病名診断と同じ意味合いを持ちます。

耳ツボは病名診断?

さて、耳のツボですが、世間で盛んに喧伝されている、耳のツボを用いる治療が、やってはならない病名診断に基づいたものなのか、本道である証診断に基づいたものなのか。重要なのはその部分です。

ちなみに、私が20才代に勤務した鍼灸院では、かなり安易に病名診断で耳ツボを使っていました。私自身もそれに基づいて治療を行い、どの程度食欲がなくなったり痩せたりしたかについて経験しています。

証診断で治療しているか、病名診断で治療しているかを見分けるのは簡単です。証の診断をしたうえで耳ツボをつかうならば、東洋医学の綿密な診断を時間をかけて行ってから治療に入るはずです。病名診断なら、深い考えなしにツボを取りますから、詳しい診断はしていないはずです。証診断をするには、相当な学識と診断技術をもつ事が必要です。

東洋医学の診断は綿密です。くわしくは下記をご参考に。
「東洋医学的な鍼灸と一般的鍼灸…違いが分かる4つの診断法」

証診断をしているか否か

もし、〇〇に効くツボ…つまり、食欲を減らすツボ…痩せるツボ…という病名診断で、耳ツボに治療するとしたら、この病名診断に基づき、耳という特定の部位に、少数の鍼を刺したままにすることになります。これは、先ほど述べた危険な治療に該当します。

耳ツボ療法も、証を確定してもちいるならば、体質を改善するという東洋医学の本道に沿った治療ができるはずです。特定の部位のみに少数の鍼を打つ…という点で、耳ツボ療法は、非常によく効く治療法としての条件を備えているからです。

しかし単に、痩せる=耳ツボ…という考えで、鍼を打つということは、やってはならないことです。実際、耳に鍼をしてもらってから、吐き気がする・食欲がない…そういう反応が出る患者さんがおられます。これを喜んでいいのか。これが本当に人の体を治すことなのか。それが原因で病気を引き起こす可能性が否定できません。小柴胡湯事件と同じです。

痩せる鍼って?

気滞によるもの

どうしても痩せられない…。これには想像以上の複雑なメカニズムがあります。耳ツボの病名診断ではなく、東洋医学の証診断ではどのように考え、治療するのでしょうか。大切な事は「痩せる鍼」をすることではなく、「痩せない原因を除く鍼」をすることです。

まず大きいのがストレス。ストレスがあると、食べることでそれを和らげようとします。これは人間の本質的なものです。ストレスは心の緊張。これは体の緊張となって持続してしまいます。鍼はそれをやわらげる力を持っています。気滞をとる治療です。

≫「気滞とは」 (正気と邪気って何だろう) をご参考に。 

ただし、ストレスとひとくちに言っても、浅いものと、非常に深く取れにくいものとがあります。最近、急に太った…それが急なストレスによる過食が原因なら、比較的すみやかに治療で痩せられますが、ずっと肥満体質で…という場合は、深く潜在的なストレスが関与するものです。治療はそれに応じた時間がかかります。

水のさばきの問題によるもの

また、大小便のさばきに問題があって痩せせられない人もいます。大小便のさばきが悪いと、身体に余計な水分や脂肪が蓄積されます。また、体が重く感じられ、運動をしたがりません。負の循環があるわけです。

大小便のさばきのメカニズムとは? 詳しくは
「浮腫 (むくみ) …東洋医学から見た5つの原因と治療法」をご参考に。

多くは、ストレスと大小便のさばきの悪さの両方が肥満の原因になっています。健康的に痩せるためには、まずは健康になることを目的にするべきなんですね。健康でありさえすれば、体を動かすことも面倒ではなくなり、ストレスによる過度の飲食は落ち着きます。その結果は自ずとついてくるはずです。

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