うつ…東洋医学から見た原因と治療法

鬱 (うつ) とは、もともと東洋医学の言葉です。意味は…「感情がとどこおって通じない」。ですから、憂鬱で気分が晴れず、波及してさまざまな症状がみられます。もちろん、直接の原因はストレスが関与します。しかし、慢性化して回復しにくくなるのは、他の様々な原因が絡みます。

ここでは、うつの主な症状である「不安感」「体のだるさ」、また「イライラ」「クヨクヨ」に焦点を当てて考えます。また、躁と鬱が混在する双極性障害 (躁うつ病) にも切り込んでみましょう。うつと梅雨空との関係も必見です。

その前に…。
東洋医学は人体をどのように捉えているのでしょうか。
「東洋医学的な鍼灸と一般的な鍼灸…違いが分かる6つの診察法」では東洋医学オリジナルの診察法について説明しています。
「東洋医学の『気』って何だろう」では、東洋医学がなぜ「たとえ」を多用するかについて説明しています。
肝臓・脾臓・心臓などの言葉は、東洋医学では意味が全く違います。なぜ? 詳しくは「五臓六腑って何だろう」をご参考に。

イライラ→肝臓→イライラ²

東洋医学の肝臓は、端的に言えば条達機能です。条達機能とは、のびのびと若木が真上に伸びるような自由闊達さです。そういう働きが人体にはあります。健康だと気持ちも伸び伸びするのは、条達機能がうまく働いているからです。

精神活動だけでなく、循環や新陳代謝も、この働きによるところが少なくありません。イライラという感情は、この働きを妨げ、体の循環を悪くし、それがまた心の循環を悪くします。

このように、肝臓が条達できなくなってしまうと、些細な事でもイライラしやすくなり、体調を崩して、ますます条達できなくなるという悪循環になります。滞りを伸びやかにする治療を行います。

証…肝気鬱結。
鍼灸…肝兪・百会・行間・後渓など。
漢方薬…柴胡疏肝散など。

≫「東洋医学の肝臓って何だろう」をご参考に。

クヨクヨ→脾臓→クヨクヨ²

東洋医学の脾臓は、消化機能・吸収機能・栄養機能です。これらが一体となって人体の各細胞は栄養を受け、活動が可能になります。口から入った様々な複雑多様な飲食物は、小腸の壁を境に、不用な残滓物と、有用な栄養分に仕分けされます。

この「不用と有用を分ける力」は精神面にも影響します。脾臓の強い人は、複雑多様な世事を把握したうえで、有用な本質のみを仕分け、単純明快に割り切って捉えることができます。

脾臓の弱い人は、この仕分けができず、クヨクヨと思い悩みます。クヨクヨ思い悩むと、脾臓を弱らせ、ますますクヨクヨしやすくなり、些細な事なのに大きな悩みと感じてしまいます。脾臓を頑強にし、有用・無用の仕分けを復活させ、心身をさっぱりさせる治療を行います。

証…心脾両虚。
鍼灸…脾兪・胃兪・外関・中脘・三里など。
漢方薬…帰脾湯など。

≫「東洋医学の脾臓って何だろう」をご参考に。

双極性障害 (躁うつ病)

①イライラ↔クヨクヨ 肝臓↔脾臓

肝臓 (イライラ) と脾臓 (クヨクヨ) はシーソー関係にあります。イライラして肝臓の条達が滞り、渋滞が始まる (肝気鬱結) と、その分、脾臓が弱くなりクヨクヨが出ます。イライラするかと思えば、急に落ち込む。落ち込みがましになると今度はまたイライラする。

証…肝気鬱結・心脾両虚のどちらが中心かを、その都度 診断し治療する。

②ハイテンション↔クヨクヨ 胃腸↔脾臓

イライラすると過食に走る場合があります。食べることでイライラが落ち着くからです。

ただし、過食は胃腸 (脾臓の一部) に熱を持たせます。つまり、肝臓の熱 (イライラ) が肝臓を離れ、胃腸に移ったということです。ここで大便とともに熱が外に排出できると良いのですが、排出できないと熱が胃腸にこもります。

熱が胃腸にあると、イライラではなく、ハイテンションで見かけが元気な「躁」の状態が目立ってきます。

胃腸の熱が長期に渡ると、それを支える脾臓が次第に弱ります。すると食欲がなくなり、過食が落ち着くとともに、クヨクヨする状態…「鬱」の状態に移行します。

鬱 (クヨクヨ) で食欲がなくなり、活動できなくなる間に、いくらか脾臓が回復します。するとまたイライラがおこり、それを食べることで落ち着かせる…これがエンドレスに続きます。

証…胃腸の熱・心脾両虚のどちらが中心かを、その都度 診断し治療する。
鍼灸で胃腸の熱を取る…上巨虚など。
漢方薬で胃腸の熱を取る…大承気湯など。

焦燥感

①火→心臓

肝気鬱結で、肝臓が条達できないと、条達を失った肝臓は、気滞を生みます。気滞が長期化してこじれると、邪熱に変化します。肝臓という働きを邪熱が阻害する状態のことを、肝火と言います。肝火もまた、イライラが特徴です。

肝火は容易に心臓に飛び火します。その状態を心火と言います。「不眠…東洋医学から見た5つの原因と治療法」で学んだように、心臓は家、「こころ」は家主に例えることができます。

心臓は「家」なわけですから、心火があるということは、家が火事をおこしたようなもの。家主である神は、家にいることができず、焦燥感…落ち着きのなさが生じます。怒りっぽかったり、泣いたり、暴れたり、眠れなかったりします。

熱を取り去る治療を行います。

証…気郁化火証
鍼灸…手の十井穴・督脈上の要穴・肝兪・後渓など。
漢方薬…丹栀逍遥散など

②火→陰

心火・肝火が長期化し、陰 (クールダウンし落ち着かせる体力) を消耗すると、火を消し止める水が無くなったようなものなので、焦燥感が慢性化します。

陰を補い、結果的に熱を取り去る治療を行います。

証…陰血不足。
鍼灸…照海・関元・腎兪・心兪・肝兪など。
漢方薬…天王补心丹・滋水清肝饮など。

陰については下記をご参考に。
「陰陽って何だろう」

不安感

①血→心臓

肝臓が条達できない状態の長期化や、度重なる食べ過ぎは、脾臓を弱らせます。脾臓が弱れば、体力のストック機能である「血」が弱ってきます。血は、脾臓によって消化吸収された栄養分から作られるからです。

心臓という家にとって、血は大切な柱のようなものです。それが弱くなるのですから、家主である「こころ」は、家で落ち着くことができず、不安感が生じます。

この不安感はまさに地獄の苦しみで、何よりもつらいものです。不安があると、安眠もかないません。脾臓の弱りは、症状の慢性化につながります。

脾臓を強くして、血を補う治療を補います。同時に精神を落ち着かせ、無駄な血の消耗を防ぐよう治療します。

証…心脾両虚。
鍼灸…神門・三陰交など。
漢方薬…帰脾湯など。

≫「東洋医学の血って何だろう」をご参考に

②湿痰→心臓

脾臓が弱ると、栄養分をめぐらせる運化機能が弱くなります。栄養分は よどんで、ネバネバ・ドロドロ・モヤモヤとした湿痰を生みます。これが肝臓の気逆と結びつくと、湿痰は上行し、「こころ」の家である心臓を覆います。

「こころ」は湿気に覆われて落ち着きをなくし、不安感を生じます。「こころ」は雲に覆われた太陽のように、本来の輝きを失い、表情も考え方も陰湿になります。

また、湿痰がノドに至ると、ノドの閉塞感・詰まった感じを生じます。脾臓の弱りがあるため、症状は慢性化します。

脾臓を強くしながら、湿痰を取り去る治療を行います。

梅雨でうつが悪化する理由

雨の時期、救急車の出動数が増えるという話を、隊員の方から聞いたことがあります。うつの患者さんが救急車を呼ぶからだそうです。

うつの患者さんの多くは脾臓の弱りによる湿痰を持っています。この湿痰が梅雨の湿気に助長されて増加します。また増加した湿痰は脾臓をますます弱らせ、血を生み出す力が低下し、うつ独特の耐えようのない不安感を生じます。

深刻なうつは必ず脾臓の弱りと湿痰があります。これを治療で上手にとってやると、その場で気持ちが晴れ晴れしてくる…これは、決して珍しいことではありません。

 

証…痰気郁结
鍼灸…脾兪・胃兪・膈兪・内関・公孫・豊隆など
漢方薬…半夏厚朴湯など

≫「湿痰とは」 (正気と邪気って何だろう) をご参考に。 

体のだるさ

脾臓の弱りが強くなると、活動力の元である「気」が弱ってきます。これから弱くなると体がだるくて動けなくなります。「深い穴に落ち込んだように動けない」状態です。食欲もなくなります。

食欲がないので動けず、動かないので食欲が出ない。こういう要素が不安感を余計に増大します。特に、食事がおいしく感じられなくなることは重大なことで、幸福感が得られなくなってしまいます。

少しましになって食欲が出だすと、間食や食べすぎが湿痰を生じ、その湿痰がまた脾臓の弱らせる…という悪循環となります。

脾臓を補い、元気を増強させる治療を行います。

証…心脾両虚。
鍼灸…神厥・中脘・下脘・足三里・太白・脾兪など。
漢方薬…帰脾湯など。

詳しくは下記をご参考に。
≫「東洋医学の気って何だろう」

まとめ

いわゆる不安感には、不安感 (クヨクヨ) と焦燥感 (イライラ) が混在しています。上に述べた肝火・心火・脾虚・湿痰・胃腸の熱・血虚・陰虚が複雑に絡み合い、独特の心理状態をもたらします。それは経験した人でないと分かりづらい苦しさ。でも、一つ一つの原因を噛分け、それをキチッと片づけていけば、必ず心に光が差し込むはずです。

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