足のむくみ (85歳)

85歳女性。

18年前から診させていただいている患者さん。
当時、苦しんでおられた持病の腰痛は完全に癒え、ここ10年ほどは健康維持のために2週間に1度の治療を続けている。
しかし、何といっても、もう高齢。
些細なことが体力を弱らせる原因となりえる。
悪い芽を見逃さず、見つけたら早いうちに摘み取るよう注意を払い、治療してきた。
その甲斐あってか、最近まで老人会の副会長を問題なく務められるほど、お元気。

症状

8月26日、来院。
診ると、両足の外踝の正座ダコが赤く腫れあがり、カサブタができている。
右足が特に腫れている。
足の甲や足首を指で押すと、右側のみが凹み、粘土のように戻らない。右足がむくんでいる。足首の上5㎝辺りから、足先にかけて。これはよくない。

「〇〇さん、足が腫れてむくんでますね。気づいてますか?」
「え? そうですか?」
「ほら、座って、よく見てください」
「あら、ホンマ…。」
「このカサブタは?」
「いやー、ホンマですねえ、知りませんでしたわ。」
「痛いとか、正座しすぎたとか、ない?」
「はい、正座なんか、もうずっとしてないです。」

高齢による免疫の低下により、正座ダコが炎症をおこし、むくみまで併発したようだ。

「ほか、変わったことない?」
「ここ4日ほど、大便が柔らかいんです。」
「においは?」
「気になりません…。」

この患者さん、便が固くなることは時々あるが、柔らかくなることはまずない。

「あと、口が乾いて仕方ありません。」

じっと寝ていても、常に口をペチャペチャさせている。普段はこんなことはない。かなり口内が乾いている。明らかに、体に異変が起こりつつある。

「足、冷えませんか?」
「ああ、日中でも冷える時があって、靴下を2枚履いてます。夜も靴下を履いて寝ます。」
「むくみはね、ほうっておくと心臓や腎臓に負担をかけてきますから、早い目に治しておきましょう。それから炎症は、免疫が落ちてるんだと思います。治るまで、間隔を詰めて治療したほうがいいですね。」

むくみは右足のみ。押すと深く指が入り、粘土のように戻らない。これは肌水と呼ばれる。むくみには押してもすぐ元に戻るものもあり、これは皮水と呼ばれるが、肌水は皮水よりも重症である。ただし、本症例は両足のむくみではない。右足のみなので、その限りでは軽症。

むくみの原因

むくみはなぜ起こるのだろう。「浮腫…東洋医学から見た5つの原因と治療法」で詳しく述べたが、簡単におさらいしよう。むくみの原因は多くは脾臓 (消化・吸収・栄養機能) の問題がある。脾臓は土に例えられる。土はフカフカのスポンジ様が健康。保水性・通気性に富み、生命を育てる。もし、土がスポンジではなくドロドロだと、水はけが悪くなる。雨水は浸み込まず、変なところ (皮下) に流れ込む。これがむくみの基本病理だ。本症例は、何が原因で土がドロドロになったのだろう。熱だろうか、寒だろうか。東洋医学は全ての病態を「寒」か「熱」かに分けて診断する。本症例は寒によるものか、熱によるものか。

患部である右足は、むくみ+炎症。炎症は間違いなく「熱」。熱が主体なら、湿熱がむくみの原因になりうる。自然現象でいえば、夏の高温時に大雨が降ると、土は腐って水はけが悪くなる。そういうむくみだ。みなさんは、お酒を飲み過ぎて足がむくんだことはないだろうか。これなどは湿熱によるむくみである。

もし、寒が主体ならどう考えるか。冷たい雨が続いて土はドロドロになり、美しい地下水にする濾過作用を失い、保水性も通気性も失う。土は冷え切ってしまい、雨がふらなくても、ドロドロの状態が続く。水はけの悪くなった土の上を、泥水が流れ、皮下に溢れる。このむくみは湿熱のむくみと異なり、体力 (脾臓) の弱りが大きく関与する。ゆえに老化とも関係が深い。脾陽虚によるむくみである。
※脾臓の陽気 (温め水をさばく力) の弱りのこと。

寒・熱、どちらも考えられる。正しい診察・診断が必要だ。

診察

左の脈のみ浮いていて、両章門の邪の絶対量が同等。このままでは左右が動かない (虚実錯雑) 。左右が動かなければ陰陽が動かず、陰陽が動かなければ症状が好転することはない。左右が使えないときは、左右の境界である任脈、あるいは督脈を用いる必要がある。しかし、境界を用いる治療は非常に影響力がある。寒か熱かを正しく診断しないと、安易に用いてはならない。寒か、熱か。

●舌は白膩苔。≫この限りでは寒。
●口の乾き。≫寒・熱どちらもあり得る。
●軟便。臭いなし。≫軟便は寒・熱どちらもあるが、臭いがないのは寒。もし臭いが強ければ熱。
●正座ダコの部分は左右ともカサブタ (右>左) ができ、腫れている。ほんのり赤みがあり、触ると熱感がある。≫これは明らかな熱。

お腹を診ると、左不容に寒邪の反応。外感は認められないので、内生の寒邪といえる。
また、左章門は直接の反応は無いが、その深部下方に邪熱。これは営血分に邪熱が潜んでいることをしめす。
メインは左不容。ということは、寒邪が邪熱を格拒 (最下段で説明) して営血分に押し込めた…と推測できる。寒が主体であると、ここで初めて断じた。寒邪をとれば、むくみだけでなく邪熱 (炎症) も自然と取れると予測。

寒 (むくみ) が熱 (炎症) を取れなくしている。寒 (むくみ) が表面を覆った隙間から、熱 (炎症) が顔を出して、その存在を示している。このように体は、象 (カタチ) を現し、我々に、「体は今、こんなふうだよ!」と教えてくれている。これが「現象」だ。

治療

1診目

寒がメインと診断、任脈を用いる。
任脈上の中脘に反応。
中脘にお灸を11壮すえて治療を終える。

本症例は足に炎症がある。にもかかわらず、寒の証と断じてお灸をするのは診断力が必要。
もし、熱の証にこのお灸をすると悪化しかねない。しかし、寒の証なら効果テキメンのはず。ツボをしぼりこむのは、それほど難しいし、価値のあることだ。ツボをたくさん使うと効果があいまいになる。たくさんツボを使うなかで中脘にお灸もするならば、悪化の心配などいらないし、むくみを治す期待もできないだろう。デリケートさはダイナミックさに直結する。

2診目

前回治療から4日後、来院。
むくみ10→3に減少。
炎症 (カサブタ・発赤・腫脹) は不変。
口の乾きは、ほぼなし。くちびるは乾く。
大便は細いのが出ている。固まってきていて形があるものの、まだ柔らかい。臭いはきつくなった。治療の手ごたえあり。≫臭いのきつい便が出だしたのは、むくみ部分の淀んだ水が、大便ルートを使って体外に排出されつつあるから。寒による水邪と、営血分にあった邪熱は排泄されつつある。むくみの水邪は、ほうっておくと生命を急速に弱らせる。

治療同前。

3診目

前回治療から7日後、来院。
むくみ0
炎症 (カサブタ・発赤・腫脹) なし。
大便は普通便に。
くちびるの乾きなし。

営血分の熱と「格拒」

今年の夏は不規則に暑かったり寒かったりを繰り返した。急に熱くなると気分※1に邪熱がこもる。ここに、急な寒さがくると、気分に寒邪が生まれる。邪熱と寒邪は気分で入り混じって中和することなく、寒邪は邪熱を拒み、邪熱は寒邪に追われるように営血分※2に入る。
※1 気分 (きぶん) …病気の深さをしめす概念。気分は浅い。浅いゆえに、ここに邪気があると症状が表に現れやすい。
※2 営血分 (えいけつぶん) …病気の深さをしめす概念。営血分は深い。深いゆえに、ここに邪気があっても症状は現れにくい

こういう現象は気象にもみられるようだ。最近よく聞く「偏西風の蛇行」。熱い空気と冷たい空気はすぐには混じらない。温暖化の影響で赤道付近の温度は熱くなっている。それが北極に向けて北上、北極圏の冷たい空気に、赤道で生まれた熱い空気が侵入しようとすると、冷たい空気は熱い空気に居場所を奪われるようにして南下する。
「あんこ」を手のひらに乗せ、それを握りつぶすと、指のすきまからアンコが飛び出る。こういうイメージで、熱い空気は冷たい空気を押しのけ、冷たい空気が下に飛び出る。飛び出た冷たい空気は、下にある熱い空気を押しのけ、熱い空気は上に飛び出る。
これを気象用語で「オストアンデル現象 (押すとアン出る) 」というらしい。この南下した冷たい空気と、北上した熱い空気が偏西風の蛇行部分で、近年の異常気象の原因となっている。

このように、すぐには入り混じらず、寒が熱を押しのけ、熱が寒を押しのける現象を、東洋医学では「格拒」という。対義語は「順接」。東洋医学は、こういう概念を少なくとも2000年前から持っている。最新の気象の研究を、すでに人体に見ていた。すごい。このすごさが治療効果にも反映される。

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