あわや難病…原因はゲーム?

症状・所見

12歳。男性。××年3月××日初診

動悸。6か月前から。1日に15回前後で毎日。動いたとき。午後が多い。布団を敷くとき特にひどい。

足指の痛み。11月に左第4趾痛。年明けから右第1・2趾痛。左第2趾痛。とくに左第2趾は軽く触れるだけで激痛。発熱・発赤・腫脹。骨折を疑わせるが、原因として思い当たるようなことがないらしい。歩くのも痛い。走るのはもっと痛い。スポーツは特に何もしていない。
じっとしていると痛まない。

舌の色が強度の白さ。舌の裏も血色がなく、表同様に白い。活発な子供の舌でこんなに血の気の無い舌は見たことがない。

本人のことは1年ほど前から知っている。いたって活発な小学6年生であることは誰もが認めるところ。 にもかかわらず、動悸とは…。しかも足の指の痛みの原因は?である。

一つ言えること。動いたときの動悸、動いたときの足指の痛み。動くことを体が拒んでいる。
しかし、本人は良くしゃべり、よく笑う明るい少年。これをどうみるか。
気が勝ちすぎて、体がついてこない。これは中高年によく見られる病態の典型だ。それが少年に現れている。これはただ事ではない。放っておくと危険だ。

気が勝って体がついてこない状態については、「脳梗塞…東洋医学から見た原因と予防法」の下段、「真の原因」で詳しくご説明した。

治療

初診

神道に治療。気と体 (血) のバランスを取りながら、気分の気滞と営血分の熱を同時に取る目的。

その後、整形でレントゲンを撮ってもらうよう指導。おそらく骨折ではないが、はっきりさせておきたい。もし、骨折でなければ、かなりややこしい関節炎だ。難病である膠原病が脳裏をかすめる。というのも、関節炎など、もしおこったとしても、体には炎症をしずめる働きがあり、子供ならすぐ治ってしまうものだ。なのに本症例では複数の指が関節炎を起こし、3カ月以上が経過している。

膠原病は、リウマチ・全身性エリテマトーデス・ベーチェット病などが知られるが、病理が恐ろしい。免疫が体を攻撃するのである。ほんらい免疫は体を守る役目。なのに攻撃するのである。狂った免疫…。もしこんな病気になると病院では、免疫を弱める薬やステロイドを出す。命の危険があるからだ。でも、こんな小さな子供にそんな薬を飲ませたくない!

もし、免疫が足の指や心臓を攻撃しているとすれば…。もし免疫がその他の内臓まで攻撃しようとしているとすれば…。何としてでも回避しなければ! 危険な波打ち際にいることだけは確か!

週に2回の治療を指導する。

2診目 (3日後)

動悸・足指痛とも、症状変わらず。レントゲンはまだ。
左外関に治療。表面の冷え・深部の熱・気滞を同時に取り、かつ血を補う。
体を休め、体力を養う必要があるとみて、脈診を行い、8:30に就寝するよう指導する。

3診目 (4日後)

症状変わらず。レントゲンはまだ。
左神門に治療。心神の治療。誤った意識の行き過ぎを食い止めながら血を補う目的。

4診目 (3日後)

症状変わらず。レントゲンはまだ。
治療は3診目と同じ。

5診目 (4日後)

昨日、歩けないほど足が痛くなり、レントゲンを撮りに整形に行った。骨折ではないとのこと。原因は分からないと言われた。痛み止めの薬の入ったシップをはるように言われ、今朝からはっている。

今日は学校で足の指の痛みがほとんどなかった。でも動悸が頻繁に起こり、昼過ぎに突然、心臓が「爆発するみたいな」痛みが出た。学校の廊下を小走りに走っている時だったとのこと。これはただ事ではない!

「痛み止めは良くないよ」といいながらシップをはがす。まもなく、「先生、足が少しズキズキしてきました」という。この痛み止めシップはかなり効いていたようだ。

お母さんを呼び出し、説明を行う。説明の内容はこうだ。

足の痛み・動悸は、ともに「これ以上動かないで!」という体が出している信号。しかし、この信号を人為的に操作して無効化した。痛み止めのシップだ。これをはったら、登校時から痛みがましになった。よく効いている。いや、信号を上手に壊せている…。これ以上動くな!と訴えていた体は、その口を封じられ、危急に迫ったことを心臓の痛みを出すことで知らせようとした。このシップをはり続けたならば、心不全を起こす可能性が非常に高い

僕は、病院の先生の言いなりになってはならないことを常に患者さんに諭す。薬は、体を休めるために使いなさい、体を酷使するために使ってはなりません、こう説明する。そして、それが間違いなく確かな事であることを今回も経験した。

このままでは、命の危険すらある!

生活を徹底的に見直すことにした。歩けないほど足が痛いなら、歩いてはならない。動いて動悸がするなら、動いてはならない。体力が戻るまでは。

脈診であらゆる行動を判定する。
まず、登下校。徒歩でいっていい?脈診での判定はNO。
体育の授業は参加していい?脈診での判定はNO。
では、学校そのものは行っていい?脈診での判定はYES。
月に2回の習い事は続けていい?脈診での判定はNO。
宿題・勉強はやっていい?脈診での判定はYES。

ここまでやって、お母さん・本人、そして診者である僕自身も呆然。これでは、普通の生活すらできないレベルだ。

お母さんが聞いてきた。「ゲームはやっていいんですか?ずっとゲームしてるんですけど…。」
「ゲームは一番体力を消耗します。診なくても分かりますが…。」
一応、脈を診る。当然NO。
すると、本人が、
「僕の唯一の楽しみが…。週に1回だったらどうですか?」
と聞いてくる。この期に及んで何を言う、と思った瞬間、ひらめいた。
この執着のきつさ…ゲームが病根だ!

再度脈診しなおす。
今度は、「ゲームをしない」という条件を付けて、判定。
すると、登下校の徒歩・体育、習い事まですべて「やっていい」とのYES判定になる。

「ゲーム、お母さんに預けなさい。このまま今の生活を続けると、間違いなく病気になると思う。」
と告げる。

神道に治療。目的は初診と同じ。

6診目 (3日後)

足の指をみる。腫れが引いている。舌を診る。赤みが出ている。この患者さんは1年前からカゼを引いた時のみ診ているが、今まで一度もこんなに赤みのある舌を呈したことがなかったのに!

症状を聞く。

「心臓の痛みは出ていません。」
「動悸は1日15回から、1日5回に減りました。」
「足の痛みはいつもを10とすると3か4になりました。」
ゲームを預けた翌朝から足も動悸も楽になってました。

半年続いた症状が、一夜で…。

その後、10日足らずで、すべての症状が消失。

まとめと考察

➀痛み止めの危険性

子供の体は、大人の体に比べて反応が正直である。良きにつけ悪きにつけ正直。だから、今回の胸痛はヒヤッとした。同時に、痛み止めの使い方を誤ると危険であるという信念に間違いのないことを確信した。痛み止めはハサミとおなじ。使いようで役にも立つし、人を傷つけることもできる。

詳しくは「スポーツ鍼灸と東洋医学的鍼灸…長所と短所ここが違う」の中でご説明した。参考にしていただきたい。

こういったことは、痛み止めに限らず、薬全般に言えることだ。現代の医療では、内科・外科などの各科に分かれた診療体制が一般的である。しかし、専門の各科の中で閉鎖的にならず、広い視野で命の営みを観察する必要性がある。薬は人体にすごい影響力があるのだから、その力の落ち着く先を、科を越えて観察すべきだ。足の痛みを止める→胸痛が出る。整形外科→心臓内科。そんな構図があるはずがない、と思われるだろうか。人間の体を医学は全て解明できていない。だからこそ、われわれは謙虚になるべきだ。

②脈診の有用性

藤本蓮風先生の御尊父、藤本和風先生。その患者さんが、かつて近所におられた。その方曰く、「ピーナッツが好きでね、でも和風先生は脈を診て、『ピーナッツは〇〇個までやで』っておっしゃるんです。」

そんなことが脈で分かるのか…と感心したのが、僕が鍼灸学校に通っていたころ。以来、奮起して独自に脈で判定する術を身に着けた。もう10年以上これを使っているが、その正確さに舌を巻くことが少なくない。今回の症例もその一つ。和風先生がどのように脈を診られていたかは知る由もないが、僕自身は難経にある「男脈・女脈」を用いて判定している。

なぜ脈でそんなことが分かるのだろう。体と直接会話ができるからである。そもそも体はすごい。我々の意識とは関係なしに生命を営んでいる。寝ている間も呼吸しているし、体温も調節する。目に見えないウイルスとも知らない間に戦ってくれているし、女性に至っては精巧な人間を作ったりもする。体は何でもよく知っているのだ。よく知らないのは我々のほうで、それは医療従事者とて大差はない。

体は医学書を読んだことがなくとも、肉体という現場をよく知っている。なにしろ〇〇年もの間 (笑) 、現場一筋なのである。「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」というテレビドラマの名セリフがあるが、病気は体で起きているのであって、医学書の中で起きているのではない。

われわれが取る様々な行動が体にどう影響しているのか。これを知ることが大切である。たとえば、知らず知らずに、常に毒を飲んでいる人がいるとする。それが原因で体を悪くしているなら、当然その毒をやめさせなければならない。いくらいい治療をしても、毒を飲んでいる限り体は良くならないからだ。本症例での「毒」はゲームだった。ただし、現代社会は多様化しすぎて、いったいどれが「毒」なのかを特定するのが難しい。脈診は、そこに大きな指標を提示できる実用性が見込める。

たとえばゲームが、人体にどのように影響するかというメカニズムは、後から研究すればいいことではないか。まずは、われわれが困っているほとんどの病気が、原因不明という事実を直視すべきだ。そもそも、病気を治すキーマンである免疫、その解明がまだ済んでいない。免疫を仕切りコントロールするものは何なのか。それすら分かっていない状況なのだ。

本格的な病気の原因の解明は、まだまだ相当の年月を要するだろう。ならば、理屈でなくとも、原因が分かれば目下それでよいのではないか。もしゲームが原因という証明ができなかったとしても、その診断が間違っていたとしても、ゲームをやめたところで別に損をするわけでもない。エビデンス (医学的根拠) も大切だか、頭を柔らかくすることも大切だ。

③ゲーム・スマホの危険性

かつての生活様式とは大きく異なる現代。文明は便利だ。しかし、便利なものほど大きな闇を持っている。たとえば自動車は移動にすごく便利だが、人の命を奪う危険を併せ持っている。我々が文明の中で生きるべき運命にあることは前提。それを踏まえた上で大切な事は、文明を操り支配すること。文明に踊らされ支配されてはならない。酒は飲んでも飲まれるな…というではないか。薬は飲んでも飲まれるな。これは本邦初。それはいいとして。

文明の歴史をたどってみよう。かつて、人類は飢えと寒さに勝てず短命だった。

産業革命以降、生活が豊かとなり寿命が延びた。一方で、ある種の病気が増えた。生活習慣病だ。ガン・脳卒中・心筋梗塞など、みなこの範疇に入ると言われている。

そして、IT革命。この革命以降の歴史は始まったばかり。IT技術が、世界中を一つのコミュニティーにするための重要な役割を果たすであろうことは想像に難くない。でも一方で…。僕はハッキリ予言する。スマホ・ゲーム・パソコン…これらによって新しい病気が増える。

④体は病気をつかい人を育てる

僕は患者さんによく、こういう話をする。

「あなたと、あなたの体は、ぜんぜん別人格ですよ。体は意志を持っています。しかも、優しく厳しい目であなたを見ているんです。あなたを育てようとしているんです。あなたがやむを得ない理由で体に良くないことをしたとき、体は黙って耐え、それを咎めようとしません。でもあなたが自分勝手な欲で体に良くないことをしたとき、体は怒りをあらわにします。そういうものなんです。もし、その人が真理にかなった心境になれば、その場で病気が治ることも珍しくありません。そういうことを、僕は臨床の中で見せられてきました。」

本症例も、一夜で大きく改善した。

東洋医学は人を育てるのだ。人を育てる=病気を治す。この医学の信念である。

本症例の患者さんには、今回の試練を糧に、輝く未来に向けてスクスクと育ってくれることを願ってやまない。

≪専門的考察≫

東洋医学に詳しい方のみご覧ください。

本症例での、強度の淡白舌は血虚によるもので間違いないだろう。もし陽虚のものであるならば、元気のなさが目立つはずだか、それは全く見受けられない。むしろ、はつらつとした少年だ。

ここで疑問になるのは関節炎である。発熱・発赤・腫脹・拒按。実熱である。しかも物理的損傷ではないため、臓腑病が経絡に発現したものといえる。関節炎以外に熱証を示す所見はない。

血虚と実熱がどうリンクするか

そもそも、この血虚と実熱はどのようにして生じたのだろう。ここで重要になるのが下虚上実である。本症例の患者は胎児期にステロイドを大量投与されており、3歳まで体が非常に弱く、頻繁に発熱したらしい。もともと稟賦不足があり、下虚から上実を生じた。そして3歳のある時期を境に急に活発になる。標である実が中心となったのだろう。

血虚に至った病理

まず下虚がある。そのうえ上実は上焦の気滞を形成し、気滞は血虚を生み出す。気実血虚である。

邪熱の生成機序

下虚と上実の落差が大きいため、封蔵できず疏泄太過にいたっている。疏泄太過の症状としては、大きな声で叱ってもらわないと歯止めが効かなくなることが頻繁にあるようで、それが挙げられる。疏泄太過と疏泄不及 (気滞) が同時に存在し、太過と不及は摩擦を生み、邪熱を生じる。上実下虚では、正気が上中焦 (気分) に遍在し、下焦 (営血分) の正気は虚ろになっている。なので、邪熱は気分にとどまらず、営血分に入りやすい。営血分に熱があると、舌診上には表れにくいし、熱証を示す所見も出にくい。気分で生まれた気滞は疏泄太過によって邪熱を生みながらも外に漏れる。なので気滞特有の特徴がなく、一見ハツラツとしている

まとめ

情志 (気滞) によって心悸が起こらず、動作 (血虚) によって起こるのは、以上のように説明できる。この血虚をゲームでさらにひどくした。

このような状態で、本人は病的なストレスを感じずして、営血分に熱をもち、強度の血虚となった。

営血分の熱が気分に出て関節炎を起こす。
心血虚により、心神が養われず、すなわち心気・心陽のレベルが下がり、動悸を起こす。

治療経過中に出た胸痛は、心気・心陽のレベルが下がって推動作用のレベルが下がり、心気滞を生じて痛みを発するに至った。気虚気滞である。因虚致実なので、かなり危険だ。

以上のように考察した。このような考察はもちろん仮説ではあるが、今後の治療で臨機応変の処置を取るうえでの座標軸として必要となる。また疑問や批判をはさむためのたたき台として、すなわち、より正しい座標軸を引くための目印としても必要である。ばくぜんと治療してはならない。

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