処暑…癌の偶感

二十四節気の続編、今回は処暑です。今年は8月23日から9月6日までが処暑となります。

稲穂が勢いよく伸びて、目に鮮やかな緑色の花を咲かせています。

この時期ともなると、朝晩が目に見えて涼しくなり、陰を養う夜が過ごしやすくなる…ところでした。ですがこの暑さ。五運六気の規律をも凌駕する温暖化の波でしょうか。

明らかに、季節の移ろいが止まっています。前に進んでいない。この現象は、今年特に顕著に感じます。

なので、特に書くことなし。

せっかくなので、季節が進まない今の状況を、東洋医学的に人体と対比して考えてみます。

前に進まないのは、気の推動機能の衰えと言えます。推動機能とは、人体におけるめくらせる力。血液循環が最もイメージしやすいでしょう。

気には、推動機能の他に、温煦 (温める) ・固摂 (漏れ出さないようにする) ・栄養・防衛・気化 (合成変化) の6種類がありますが、その筆頭はやはり推動機能だと思います。動かないものは生命とは言えないからです。その次は温煦機能でしょうか。暖かくないものに命は宿りません。暖かさは、前に進む力の大きな助けとなります。

季節は今、前に進むことができず、熱が盛んです。もちろん、日本という地球の一部分の話ですが。

人体でも、推動がうまくいかないと、それを助けるはずの温煦も滞り、熱を生じます。気滞でも気虚でも熱を生じます。

地球環境が死ぬということは現時点ではありえませんが、もしそういうことがあるなら、この熱 (陽) が冷めず、雨 (陰) が降らなければそうなるでしょう。暑くても、雨があれば命は存続します。陰と陽が交わるからです。陰と陽との交わりこそが命の根拠です。

我々はいずれ死にます。でも、陰と陽の交わりをできるだけ長く保ち、陰陽をすこしずつ小さくして死にたいものです。健康で長生きでポックリです。健康でないとポックリはあり得ませんし、健康なら必然的に長生きになります。

天寿を全うできず、短命になる病気を考えてみましょう。

脳卒中は陰が陽をつなぎ留められず陽が上に飛び出してしまう病態。陽が上に昇るだけに、短期で決してしまいます。陽が拡大し陰が縮小する状態を、陽が力ずくで持ちこたえた結果、満月のように絞った弓から矢が放たれるように、一気に陽が飛び出してしまうのです。巨大化した陽が陰を置いて離れてしまいます。

癌は脳卒中に比べ、長期に渡ってジワジワ病気が進行します。これは陰陽の狂い方の違いによります。

癌は主導権を持った陽が陰を拒む病態。陰を拒み続けた結果、陽も縮小し死に至ります。そうやってどんどん陰陽の幅を小さくしながらも、陽 (興奮) が陰 (消沈) より優位に立つ状態は変わらず、何度これを繰り返しても最終段階になるまで症状が出ません。こちらは陽が内へ内へもぐりこみ、陰を追いやります。本来、陰は内を守り、陽は外を守るのが陰陽の形ですが、陰陽の幅が小さい…つまり陰も陽も弱いと、本来外を守るべき陽・熱が内へ入っていきます。熱は陰をダメにします。痩せて干からびた体にしたり、汗や血を体外に追い出して消耗させたり、陰が陽を生めないところまで衰弱すると推動できず不通となって激痛を生じたり。肉も体液も陰です。陰と陽が交わらず、陽が陰を抱かずに、拒む形になっています。

癌の場合、この陽である熱…すなわち邪熱がなぜ起こるかが問題です。

話を進める前に、東洋医学的に、癌をどのようなメカニズムで説明するのか、確認しておきましょう。日本を代表する名医、藤本蓮風先生が説かれるように、湿痰・瘀血は有形の邪で癌の材料となり、邪熱がエンジンで癌を進行させ、気滞は湿痰・瘀血・邪熱を一つにまとめる接着剤のようなものです。まず気滞をとって、湿痰・瘀血・邪熱をバラバラにしてから一つ一つを取るのがセオリーです。これを踏まえて、癌について考えます。

さて、邪熱がなぜ起こるかという問題でしたね。そもそも熱は気滞から起こります。

湿痰や瘀血も熱化しますが、そこに気の停滞が生まれるので熱化すると考えられます。この気滞の成り立ちなのですが、単に実証としての気滞ならば、それを除く治療はさほど難しくはありません。気滞の除去が可能ならば、邪熱の除去もまた然りです。

しかし、癌のなおりにくさは、そういう気滞ではないことを想像させます。たとえば、湿痰・瘀血は停滞を生み、気滞を生じます。この湿痰・瘀血は普通は食べ過ぎや気滞から生じますが、脾虚や気虚といった虚証からも生じます。脾虚湿困証・気虚血瘀証です。

このように、虚が原因となって生じた湿痰・瘀血があり、それらから気滞が生じたとします。その気滞が化熱して邪熱を生じてしまったとしたら、単純に邪熱を取ろうとしても、正気の虚が邪魔してしまう可能性が高く、この段階で湿痰・瘀血を取ろうとしても気滞や邪熱が邪魔で取りにくく、正気の虚から補うしかなくなってしまいます。

この複雑な膠着状態のなかで、湿痰瘀血は陰邪としての性質から陽気を弱らせ、気滞は化熱する機会を営血分という巣穴の底から、虎視眈々とうかがっています。虎が巣穴から踊り出て一朝邪熱を生じたならば、陰を拒んで体力を消耗させ、体力が消耗すると、虚から生じた湿痰瘀血はより強固なものとなり、陽気を弱らせながらさらなる気滞を生み、やがて邪熱を生じて再び陰を拒みます。

気滞・邪熱・湿痰・瘀血という邪実は、普通のありふれた病態の中でも見られます。なのに、なぜ癌があれほど短期のうちに正気をむしばむのか、ということが分かっていなければ、癌の治療はできません。そういう意味で、こういった考察は常に必要だろうと考えています。

地球環境でも、よく似た事象があります。温暖化の「熱」にスポットを当てると、その熱には2つの原因があります。ひとつは人間が直接燃やす火。もうひとつは樹木が少なくなることによる火です。直接燃やす火…火力発電が主たるものでしょうか、これは今すぐにでも止めることは可能ですね。もうひとつの森林の減少による火は、元に戻すのには100年かかるでしょう。オーソドックスな邪実と、虚から生じた邪実の違いです。森林は地球の生命力そのものです。森林 (正気) だけは大切に守らなければ。それが失われたときに襲い掛かる災いの恐ろしさは、癌のそれと同じものであると知るべきなのです。

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