嘔吐…東洋医学から見た6つの原因と治療法

誰しも経験がある突然の嘔吐。一過性で終わるものもあれば、長期的慢性的に続くものもあります。どのような病気に侵されているかを判定する重要なサインにもなりますし、病気が治ろうとする反応であることもあります。

なぜ吐いたのか。それを知っておかなければ、治せない病気はたくさんあります。慢性化した嘔吐を治療するうえではもちろん、様々な病気に対処するうえでも、嘔吐を理解しておくことは重要です。東洋医学では嘔吐をどのように分析するのでしょうか。

東洋医学の「胃」

嘔吐の基本病理は、胃の上逆です。胃は、下降が順当な姿。つまり、食べたものが口から食道、胃、腸、肛門へと、どんどん下に下へと降っていきます。これが下降機能であり、この機能のことを胃と言います。

変な言い方をしましたね。胃といえば、皆さんご存知のストマックですが、東洋医学はストマックという物質としてみるよりも、下降する働きとしての機能としてみる側面を重視します。だから、下降機能=胃 と理解して下さい。ちなみに、胃とはもともと東洋医学の言葉で、機能を意味します。

胃が弱る=下降機能が弱る…すると、逆の力が勝ります。それが上逆です。胃の上逆が起こると、嘔吐となります。

では、どんな原因で胃の上逆が起こるのでしょうか。

原因と治療法

1.外邪犯胃

外邪とは、気候の急な変動のことです。気候の急変が胃に影響し、吐く。ノロウイルスなどもその中に含まれます。

気候の急変…つまり、急な寒さ・急な湿気・急な暑さがあると、必ず「風」が起こります。これを風邪といいます。気候の急変による風邪は勢いが強く、体力が充実していて防御ができていても、侵入を許してしまいます。風にはわずかな隙間から吹き込む性質があり、防御をうまくすり抜けます。しかも、湿邪・暑邪・寒邪を伴いながら侵入してきます。これら風・湿・暑・寒の邪を外邪といいます。

これら外邪が侵入したとき、もし胃にもともと湿邪があると、嘔吐が起こります。

もともと胃にある湿邪とは、食べ過ぎ飲みすぎなどで生じた消化しきれない「余り」のことです。この湿邪は外邪の湿邪 (外湿) と区別するために、内生の湿邪 (内湿) といいます。

外邪の侵入、内湿の存在。この条件がそろったとき、嘔吐が起こります。

このメカニズムを理解するうえで大切なことがあります。外邪に対する防御を担う「衛気」が、どのようにして形成されるかという生理です。衛気は腎陽が変身したものですが、その腎陽を養っているのは、ほかでもない飲食物です。口から入った飲食物は胃によって下降し、下にある腎臓の力を補充します。力を得た腎臓は、温める力 (腎陽) を上にある肺臓に持ち上げ、肺臓はその温める力を皮膚表面に発散します。この発散されたものが衛気です。

口から皮膚に。この一連の流れを、もし外邪が皮膚でせき止めてしまったら? 流れられなくなりますね。その一つの表れが嘔吐という逆流であるということです。もちろん、ここに内湿というせき止める要素がもう一つ加わりますが。

●症状…
突然、嘔吐する。
≫カゼは突然ですね。だから突然嘔吐します。

発熱・悪寒・頭痛を伴う。
≫発熱・悪寒・頭痛の分析は、実はとても複雑です。専門的になりますが、以下に詳しく説明しましょう。

表実証とは

気候の急変 (寒暖差) は風邪を生み出します。この風邪が先導役となり、皮毛に入って寒邪・湿邪・暑邪を導き入れます。寒邪・湿邪・暑邪は、皮毛にとどまって衛気を阻遏します。これが表実証です。

皮毛にとどまるということは、もともと衛気の最前線は皮毛まで達しているということで、正気にはスキはあったかもしれませんが、それなりに仕事を果たしていたということです。それだけ風邪はじめ外邪の勢いが強いということで、この場合、寒邪・湿邪・暑邪の区別なく、悪寒・頭痛・無汗・発熱となり、麻黄湯証に似た症状を呈します。

寒・湿・暑の各邪は皮毛の気滞をもたらし、疏泄不利となり、無汗となります。正気も各邪に対抗してブロックしようとするうえ、悪寒があるので防寒しようとするため、これ以上の風邪にやられることはなく、寒・湿・暑邪>風邪 の構図となります。いったん皮毛に風穴を開けた風邪は、肌表まで侵入できず、正気にブロックされます。

表虚証とは

寒暖差がわずかなときは、生み出される風邪もわずかで、必然的に寒・暑・湿もわずかとなります。しかし、正気の弱りあると、衛気の最前線が肌表まで後退しているため、弱い風邪であったとしても侵入を許してしまいます。風邪は肌表にとどまり衛気をデタラメに動かして発熱します。これが表虚証で、風邪は疏泄するため自汗が見られます。寒・湿・暑ではなく、風邪中心の構図となります。

有汗・無汗はなぜ起こる

上記は、寒邪や湿邪や暑邪による表証の場合、無汗だったり有汗だったりする理由となります。風邪中心の病態なのか、寒・湿・暑邪が中心の病態なのか、正気がどこまで達しているかによって比率が変わります。

衛気の阻遏→嘔吐

共通するのは、表実・表虚ともに、衛気を阻遏することです。その証しとして、悪風寒・頭項強痛を発症します。風邪は疏泄するので本来は痛みは出ませんが、表虚証といえどもいくらかは寒・湿・暑の邪が混じるので、それが衛気を阻遏するのです。先ほど言うように比率の問題です。こうして衛気が阻遏されるために、口から皮膚へのルートが動かなくなり、嘔吐しやすくなります。

胸から胃にかけてムカムカする。舌に白い苔がある。
≫もともと内湿があるということです。

●治療方針…疏邪解表・化濁和中…外邪を追い出し、内湿を取り去る。
●鍼灸…外関・合谷・身柱・足三里など
●漢方薬…藿香正気散など。
藿香・紫蘇・白芷。厚朴・大腹皮。白术・茯苓・甘草。陈皮・半夏。

≫「誤嚥→嘔吐」をご参考に。

2.食滞内停証

暴飲暴食・冷たい飲食物や生ものの摂り過ぎ・アルコール・ピリ辛・甘いものの大量摂取・不潔な飲食物の摂取は、均しく消化不良を起こし、急に胃を弱らせて嘔吐を発症します。

症状…
臭い嘔吐物を吐く。臭いゲップが出る。胃が張る。出て食べたがらない。
≫消化不良の特徴です。

便秘となることもあり、下痢することもある。
≫消化不良物が腹中にあります。これが気滞となり脾臓を阻害します。口から肛門に至るルートにおいて脾臓の運化機能が阻害され下降できないと便秘となります。運化だけでなく脾臓の昇清機能・制水機能までもが阻害されると下痢となります。

脈は滑実、舌は厚膩苔となる。
≫食滞の特徴です。

治法…消食化滞・和胃降逆…消化を促進し滞りを取り去る。
鍼灸…内関・公孫・裏内庭・脾兪・胃兪・中脘など。
漢方薬…保和丸など。
神曲、山楂、莱菔子。陈皮、半夏、茯苓。连翘。

3.痰飲内阻証

平素から飲食の不摂生があると、脾臓の運化に支障をきたし、摂取した栄養分がサラサラ流れず、滞って湿痰となります。このとき、口から肛門に至るルートの運化が悪いと、このルートは下降する力、すなわち胃の守備範囲なので、湿痰が胃に生じます。湿痰が下降機能をもっと邪魔すると、上逆して嘔吐となります。

症状…
よだれや痰のようなものを嘔吐する。胃が気持ち悪く、食欲がない。
≫湿痰が内に停滞していて、下降機能が阻害されています。

めまいがする。動悸がする。
≫下降機能が阻害されると上逆しますが、上逆は必ずしも嘔吐として表現されるとは限らず、頭部 (清空) に上逆すればめまいとなり、胸中に上逆すれば動悸となります

治療方針…温中化飲・和胃降逆
鍼灸…豊隆・中脘・足三里・陰陵泉など
漢方薬…小半夏湯合苓桂朮甘湯など
生姜、半夏。茯苓、桂枝、白术、甘草。

4.肝気犯胃証

ストレスによる嘔吐です。悩み・怒りは肝臓を狂わせます。肝臓の持つ「素直に前に進む力」は「誤って攻撃する力」になってしまい、胃・脾臓を攻撃します。そのため胃は下降機能を失い、脾臓は口から肛門に至るルートを運化できず湿痰を生じ、上逆して嘔吐となります。

症状…
酸っぱい水を嘔吐し、ゲップが出る。
≫「酸っぱい水」というのは肝臓が狂っている証拠です。なぜそうなるかは「逆流性食道炎…東洋医学から見た2つの原因と治療法」をご参考になさってください。
ゲップは食滞でも出ますが、肝気犯胃でも起こります。いずれも胃の上逆で起こります。このゲップは食滞のような腐臭はありません。

側胸部・側腹部を中心とした痛みがある。舌の外縁が赤くなる。
≫肝臓が狂うと体の外側が病みやすくなります。

治療方針…理気降逆
鍼灸…胃兪・胆兪・内関・外関など
漢方薬…四七湯など。
半夏、茯苓、紫蘇葉、厚朴

5.胃熱証

胃熱によって嘔吐を起こす場合があります。以下は、1.外邪犯胃~4.肝気犯胃が熱化した変証で、胃熱を伴います。胃熱証による嘔吐は、食べたらすぐに吐く、吐く量が多い、等が特徴です。

治療方針…瀉火降逆
鍼灸…霊台・厲兌・内庭・上巨虚・曲池・合谷・胃兪・肝兪など。

①暑邪による外邪犯胃証

●暑邪犯胃証
嘔吐する。高熱が出る。ノドが渇く。煩躁し不安になり眠れなくなる。口の中がカラカラになる。便秘して小便が黄色くなる。
黄連解毒湯…黄连、黄芩、黄柏、栀子

②食滞内停証が化熱

酸っぱい鼻をつまむような腐臭のする嘔吐が特徴。
●胃中積熱上衝証
…食後すぐ吐く。口臭がひどい。ノドが渇く。
竹筎湯…青竹茹、 生姜、 半夏、 茯苓、 橘皮
●陽明腑実証
…嘔吐する。腹が張って押さえると痛がる。大便が出ない。発熱を伴う。
枳実導滞丸…枳実(炒),大黄,黄连(姜汁炙),黄芩,六神曲(炒),白术(炒),茯苓,泽泻

③痰飲内阻証が化熱

●痰郁化熱証
…めまいがする。ムカムカして吐く。口が苦い。眠れない。
黄連温胆湯…黄連、竹茹、枳实、半夏、陈皮、甘草、生姜、茯苓

④肝気犯胃証が化熱

●気郁化火証
…肝鬱気滞が化熱して胃を犯す。
酸っぱい緑色の水様物を吐く。気持ちが落ち着かない。ノドが渇く。胆熱犯胃では黄色の苦い水様物を吐く。
左金丸…黄连、吴茱萸

6.胃・脾臓の弱り

以上、外邪犯胃・食滞内停・湿痰内阻・肝気犯胃・胃熱を見てきましたが、これら5つの原因は、すべて胃の下降機能を弱らせます。また、胃と脾臓は夫婦のような関係なので、一方が弱ると他方も弱る関係上、脾臓も弱ってしまいます。
もし、これら5つの原因を除くことができなければ、胃には常に負担がかかる道理で、胃も脾臓も弱ってしまいます。いつしか原因は胃・脾臓の弱りが中心となり、慢性的に経過して、嘔吐とともに食欲が低下していきます。

また、様々な病気で胃に負担をかけたり、もともと胃・脾臓が弱かったり、動きすぎ・動かなさすぎがあったりしても、胃の下降機能が働かず嘔吐となり、脾臓の弱りから食欲がなくなります。

胃・脾臓の弱りによる嘔吐は、吐いても量は少なく、吐き方も弱々しい感じで、匂いもきつくありません。雰囲気として気持ちが萎縮して元気がなく、体のだるさを訴えます。それに比して、上記1.外邪犯胃証~5.胃熱証は、突然発症し、大量の嘔吐物が噴出し、匂いもきついのが特徴です。

弱りを中心とする嘔吐は慢性的に経過しやすく、食が進まないと様々な悪影響が出るので注意が必要です。はなはだしい場合は嘔吐が止まらず、顔面蒼白・手足が冷えて回復せず、下痢も止まらなくなり、手首の脈が細く触れなくなると、これは陰 (形体) の器が小さくなり過ぎて、陽 (生命力) をつなぎとめることができず、死に至る場合もあります。嘔吐してそのまま亡くなる場合があります。

以下、どのような病態があるのか見ていきましょう。

①脾胃気虚証

症状…
悪心嘔吐する。
≫胃の下降機能の弱りです。
食欲がない。
≫胃が食物を受け入れることができず、脾臓が運化することができません。
胃がもたれる。
≫食滞があります。
唾液多くアワを吐く。
≫湿痰が口中に溢れます。同時に脾臓の制水機能が低下しています。
大便がスッキリ出ない。
≫胃の下降機能・脾臓の運化機能が弱っています。気虚は主に推動機能の衰えと考えると便秘が説明しやすいかもしれません。

治療方針…健脾益気・和胃降逆
鍼灸…脾兪・胃兪・足三里など。
漢方薬…香砂六君子湯
木香、砂仁+人参、白术、茯苓、半夏、陈皮、炙甘草

②脾胃陽虚証

症状…
飲食を少し摂り過ぎただけで吐く。澄んだ水のような嘔吐物を吐く。
≫脾胃気虚証が脾胃の軽度の弱りなら、脾胃陽虚証は脾胃の重度の弱りです。脾臓の運化機能・胃の下降機能がともに重症なため、少し食べ過ぎただけで嘔吐します。冷えた水は腐りませんね。同じように冷えた異では嘔吐物も汚くありません
顔色が青白い。体がだるく力が出ない。
≫生命の柱は気血です。気血は使うと減少し、脾胃が補充の役目を担います。この症状は、脾胃が弱って気血が不足した様子を示します。
暖かさを喜び、寒さを嫌う。手足が温まらない。
≫陽虚なので温煦機能が衰えます。
大便が希薄な軟便・下痢。口が乾き、しかし飲みたがらない。
≫陽虚は推動機能・温煦機能ともに衰えていると考えると分かりやすいかもしれません。温煦できないと気化機能も栄養機能も利かなくなるので、飲食物は消化吸収できないまま流れてしまいます。唾液は上に持ち上げられず、口が乾きますが、中が冷えているので水分を欲しがりません。

治療方針…温中健脾・和胃降逆
鍼灸…中脘・神闕・足三里など
漢方薬…理中湯など
人参 炙甘草 干姜 白术

③胃陰不足証

嘔吐が発作的に、やや激しく起こる。嘔吐しても少量の粘りのあるよだれのようなものしか出ない。何も出ないこともある。
≫5.胃熱 が陳旧化すると陰が不足して胃陰不足証となります。
胃熱がまだあるので症状はやや陽的で激しく、陰すなわち潤すものが不足するので内容物が出ないこともあります
口・ノドがカラカラに乾く。空腹感はあるが、食べようとすると食べられない。
≫潤いが足りなくなっているので口が乾き、食べものがノドを通りません。先に果物を食べると潤いが得られ、ご飯が食べやすくなることがあります。

治療方針…滋養胃陰・降逆止嘔
鍼灸…下脘・公孫・脾兪・列缺など
漢方薬…麦門冬湯など
麦门冬、半夏、人参、甘草、粳米、大枣

コメント

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました