雨水…表証・陰火・瘀血

梅の花はすでに春の訪れを告げ、ここしばらくは畑の片隅の貯水桶に氷の張らない日が続いていました。二日ほど前から朝の寒さが戻っていますが、日中は車に乗ると暑いくらいの晴天です。
例年、立春前後に開く小梅の樹、これは家の裏に植えてあるものですが、今年は1月中旬には咲き始めていたと記憶しています。暖冬の影響でしょうか。今はこのように満開です。

最近の印象を順を追って書き留めます。

秋ごろからしばしば見かけるのが表証です。初診時は現在も良く見かけます。この表証は、いわば「隠れ表証」で見破りにくいものです。複雑な症状に見えても、これを見据えていると単純化することができます。この表証の多さは、去年の夏の異常な暑さが原因か…などと想像しています。つまり気血を消耗したからではないかと。

逆に今冬、猛威を振るったインフルエンザは、表証の反応がないものばかりでした。今年は5~6人、インフルの治療目的で来院がありました。ここ飛鳥地方では、お正月明けの1月10日頃からからいきなりピークが来たような感じがありました。ぼく的には表証ではなく内傷発熱と見ます。この場合、食べる・寝るがうまくいっている人は、短期で治癒しています。治療の必要もありません。治りにくい人はみな、食欲がなくなった人です。通院された5~6人はみな、そういうタイプでした。多くは罹患前に脾気 (消化器機能) を弱らせています。おかずやお菓子・麺・パンなら食べられるが白米が進まない。そういう人は感染すると隠れていた脾虚 (消化器機能の弱り) が一気に表面化します。つまり陰火です。熱が下がりかけても、食養生の指導を大切にしない人はまた発熱しました。

間食 (三食以外の不定期な食事) をなくし、白米を主食にするだけで、インフル発症者が半数になると考えています。手洗いうがいよりもはるかに有効だと思います。白米は味が淡白で食べ過ぎることがなく、水面下で脾気が弱っても「今日は食欲がない」と気づくことのできる唯一の食品です。温暖湿潤気候に暮らす日本人は、ともすると湿気で体が重くなりやすいですが、白米を主食にすると動く力が得られます。稲作に向く日本の国土と、そこに暮らす日本人。地産地消の真の大切さはここにあります。米の大切さは体育会系では常識で、白米が厳しい練習に耐えるために必要であることを経験的によく知っています。羽生君もそういっていますね。

パン・麺・おかず・お菓子・お寿司などは、水面下で脾気が弱っていても気づくことができず、普段通り食べてしまい、脾胃を休め回復させることができません。だから脾気を弱らせたり水湿の邪を体にためたりして動くのがしんどくなるのです。そういう状態でインフルエンザウイルスに出会うと、一気に脾虚が表面化し、陰火を起こしてシツコイ発熱となるのです。

今年はインフルエンザが全国的に猛威を振るっていると聞きます。推測ですが、昨夏の猛暑で脾虚を起こし、しかも疏泄太過が色濃く出ていたので、脾虚が表面化せず水面下で持続したと見ます。疏泄太過があると食欲は落ちません。その疏泄太過が年末年始にかけて本格的に収束した結果、脾虚が一気に表面化して気虚発熱…陰火となったとも考えられます。こういう分析は外れていたとしても試みることが重要です。

最近の臨床での特徴は瘀血です。2月に入ったころから少腹の反応が頻繁に見られるようになりました。患者さんが、「今日はなんかお腹が痛い…」と言ったあと、ぼくと患者さんが同時に「チクチクと」とハモってしまうこともあるほどでした。チクチクは瘀血の特徴です。チクチクという患者さんが大勢いました。

瘀血を取るのは難しいとよく言われます。瘀血の反応は少腹 (鼠径部の上方、上前腸骨棘の内側) で診ますが、腹診上、少腹は最も下に位置します。腹診では下に位置するものほど衛分→気分→営分→血分と深くなっていくと言われます。たしかに、たとえば章門に沈んだ邪がある場合、営血分の邪熱が存在すると考えていますが、その邪熱は章門よりもはるか下方に感じられます。少腹の反応はそれよりもまだ下にあります。

問診で瘀血の存在が証明出来ていて、少腹には反応がないものもあります。これは一つは気滞さえ取れは瘀血が勝手に取れるものもありますが、もう一つは瘀血を取ることのできるステージまで改善できていないものもあるのではないかと思います。治療を重ねて改善すると、少腹に反応が出だし、瘀血が排泄ルートに乗りやすくなる、というケースがあります。瘀血が取れにくいと言われる一例です。

少腹に反応があって、後臨泣・三陰交に邪があったとしても、多くはこれら穴処の邪は沈んでいて、直接鍼をして取れるというケースは少ないと思います。まず気滞・邪熱・湿痰をとりながら、気血を補うと、これらの穴処が浮いてきます。そこで初めて瀉法するとよく効くと思います。これも瘀血が取れにくいと言われる理由になります。純粋な瀉法ができる患者さんはは本当に少ないと思います。

ぼくの場合は、これらを一穴でやります。

気滞・邪熱・湿痰のいずれが主要矛盾であるかを、多くは不容の邪を診て噛み分けます。湿痰はぼく的にはほとんどなく (ストレスが飲食不摂を呼び込むから) 、多くは気滞か邪熱、あるいは寒邪 (内生) が主要矛盾です。たとえば気滞が主と見たら、空間が上に出ているならば合谷とか列缺とか百会とかを見比べ、反応が最後まで残る穴処を選穴します。その穴処…例えば百会の反応が強かったとして、その百会は多くは虚実錯雑ですから、そこにまず補法でアプローチします。すると純粋な実の反応に変わり、そこで意図的に邪にあて瀉法する場合もあります。また、邪にあてずとも邪が集まってきて補法が勝手に瀉法に変わる場合もあります。これで気滞が取れます。

この時、三陰交や後臨泣が浮いてきます。それら穴処に直接瀉法してもいいのです。でも、それでは2穴になってしまうので、最近はそれをやりません。百会のやや深部に邪が残るのを望診で見分けます。そこに少し鍼を進めて散らしてやると三陰交や後臨泣の邪が取れます。営血分の熱はそれで簡単に取れる印象ですが、瘀血の場合は刺鍼時と抜鍼時の2度に分けて邪を散らす必要があることが多いです。これも瘀血が取れにくいと言われるのと合致します。

頻繁に使う百会てすが、一穴でこのような色々な意味が込められています。気血の補法・邪実の瀉法・瘀血の瀉法…と、3穴は必要なところを一穴でやるわけです。しかし、これら一連の仕事は、このような動きがハッキリと把握できていなれけばやってはならないと思います。見えたり感じたり出来ていないのに、形だけを真似すると危険です。

さて、このような治療を何度も繰り返すことで初めて瘀血が排泄ルートに乗り出し、取れていくのですから、瘀血は難しいと言われるのは当然のことかと思われます。

ちなみに上記の「チクチク」はみな、浅いレベルの瘀血なのでしょう、その場で取ることができています。このようなことができるのも、名医・藤本蓮風先生が、瘀血を取る穴処として臨泣・三陰交が有効であると我々にご教授くださったおかげです。

去年のブログを読み返していると、昨冬も瘀血について注目しています。昨冬は営血分の熱が強かった印象ですが、この冬はそれほど強くは感じませんでした。去年の反省から、うまく先手を打てていたのかもしれません。代わりに、もともと脾気の弱い人限定でですが、陰火に手こずりました。インフルに食養生が必要なことは前から知っていましたが、陰火というハッキリとした位置づけができていませんでした。早い時期のインフルの患者さんは、鍼でよくすることに意識が偏り、食事指導が後手に回ってしまいした。陰火に気づいてからは先が読めていたし、再度発熱しても患者さんが反省していました。この教訓を来年以降、生かしたいと思います。

陰火・営血分の熱、どちらにしても熱で、これらが血を凝縮させて瘀血を形成するのかもしれません。一方で、寒さで寒凝瘀血のような形で瘀血が助長される側面もあると思います。除去しにくい熱&寒さによって、冬場は瘀血を形成しやすい可能性があり、来冬も注意してみていきたいと思います。

1月中旬から今に至るまで、頻用している穴処。百会・左右百会・内関・中脘・滑肉門・天枢・大巨・帯脈・胃兪・上三陰交。

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