春分…花粉症と陽蹻脈・陰蹻脈

この期間、もっとも興味深く追跡したのは花粉症です。患者さんはこの時期、花粉も主訴の一つに加えてこられます。今回は花粉症の見解として新しいものをまとめてみようと思います。

まず、ここ飛鳥地方での花粉の状況ですが、ドラッグストア勤務の方の話によると、花粉関連の商品が去年とは比較にならないくらい売れているとのことです。今年の花粉はきついのでしょう。

今まで、花粉症については色々考えさせられてきました。

一つ目の問題。たとえば、かつての名プレイヤー、西武ライオンズの秋山幸二選手。清原選手とともに長距離砲としてAK砲と称された身体能力抜群の選手です。この選手は花粉症でも有名で、開幕直後の3・4月は成績が伸びず、花粉症が落ち着く5月になると大活躍するので、「ミスターメイ」とも呼ばれました。

そもそも、野球選手も含めたスポーツの一流選手は、体力が非常に充実した人ばかりです。いくら才能があっても、練習をしなければスポーツは上達しません。人の数倍もの練習量をこなして、なお体を壊さない。そういう限られた人のみが一流になれる可能性を持つのです。じっさい、秋山選手は西武からダイエーに移籍し、40歳を過ぎるまで長く活躍した選手です。そんな健康な人が花粉症とは。秋山選手の体を実際に診たことがないのでなんともいえませんが、健康な人でも花粉症になるのでしょうか。

二つ目の問題。春・夏・秋と花粉が飛ぶ中、なぜ春の花粉症がもっともボピュラーなのか。一年のなかの春というのは、一日のなかの朝と同じです。冬は夜です。冬の眠りから目覚めた体が、一気に活動的になる。そういう季節が春と考えることができます。ということは、冬に活動が過ぎた人が発症しやすいのか。木の芽時に体調を壊す人は、そういうタイプです。しかし、そのタイプの患者さんが必ずしも花粉症を持っているとも限りません。法則性はありますが、やや弱いと思います。

三つ目の問題。そもそも、花粉は人間が作り出した公害ともいえるものです。本州の人が花粉の飛んでいない北海道に行くと、花粉症が治るとも聞きます。本来ならば、日本の山林は、春は芽吹きの新緑、夏は深い緑となり、秋は黄やくれないに色づき、冬は枯れ木が山のあちこちに散在するのが自然の景色です。それが、今の山林はスギとヒノキばかり。材木を植えておけばお金になる。そういう意識・欲望が、日本の風景を変えたのです。

通常、病気というものは病人自身の意識の問題に端を発します。例えば徹夜でマージャンをし過ぎて頭痛になった。お酒を飲みすぎて肝硬変になった。すべて本人の問題です。しかし花粉症は、もしスギやヒノキが自然林で点在する程度なら、発症する人はごくまれなはずです。患者本人に問題がないという特徴があります。不可抗力という側面があるのです。

そんな特殊ともいえる病態である花粉症。これまでどういう治療をしてきたかをまとめてみたいと思います。

花粉症については、表証の有無が第一のポイントです。表証が入ると夜も寝られないような激しい鼻炎になるという印象です。これを取ると、患者さんは必ず「ましになった」とおっしゃいます。しかし、表証が見当たらないのに、つらいと訴えてこられたらどうするのか。

使えるのは麦です。小麦・大麦を使った食品はなぜかスギ花粉症を悪化させます。花粉が飛び始めて症状が出始めたころなら、これを避けるだけで炎症が落ち着くという印象です。ただし有効なのは、年明けからから温かくなり始めるころまで。ですから、3月20日ころになれば花粉症が落ち着き出すという人にはかなり有効です。年明けから気を付けていると非常に軽く済むということを経験しています。

それらと並行して、その人の体質に合わせて、正気を補い邪気を瀉すこと。正気は特に下の正気。邪気は特に邪熱・水邪。それで去年は行けていた感じなのですが、今年の花粉は強いようで、これら3項目をクリアしていてもひどくなるケースがありました。

今年は2月25日に最高気温が15℃に達し、花粉症の症状がハッキリと見られるようになりました。序盤は上記2項目を武器に無難に治療ができていました。しかし3月9日・10日あたりで急な悪化が現れました。このとき、強く意識させられたのは、花粉症に独特の気温の変化による悪化です。不快な寒さ・暑さを感じることで、鼻のかゆさ・ムズムズがひどくなります。

こういう場合、表証をまず疑いますが、それがない。ならば、この不快な寒さ・暑さをどう理解したらいいのか。思いついたのは陽蹻脈・陰蹻脈です。

この二脈はカカト (跟中) と目 (晴明) で交会しており、跟中は起始点であって、それを同じゅうするほど密接不離の関係にあります。この点から、二脈は常にセットで考えてよいと思います。その意味も含め、両蹻脈とも呼びながら進めていきたいと思います。

さて、そもそも陰蹻脈・陽蹻脈という概念、またそれを含めた奇経八脈は未だ謎が多く、東洋医学は完成したものではなく進歩し続ける医学であることを象徴するものの一つです。これらが何を意味し、どう運用していくかはこれから議論されるべきものです。それを踏まえて読み進めてください。

ぼくは、両蹻脈の特徴は敏捷さであり、それは1日という短いスパンの中で常に機能している陰陽変遷の敏捷さであると考えています。たとえば、朝、目覚める。起きる。行動する。休憩する。また行動する。休憩する。眠る。このような、陰陽消長の激しい変化を後押しする機能であるということです。

眠っているときはカゼをひきやすいですね。だからフトンが必要なのです。眠っているときは衛気 (気温変化から身を守る機能) が体内に入ります。起き上がる瞬時に衛気は体表を走り、活発な活動すなわち陽が前面に出ます。また、入眠時は陰蹻脈の陰の幅が急増し、陽はその陰に引き寄せられるように体内に入り、陽動性は陰によって中和され、安眠となります。

この陽は、活動時は体表を温め、睡眠時は体内に温存されます。つまり、この陽の出し入れを敏捷に行う働きが陽蹻脈・陰蹻脈と言えます。

花粉症の大きな特徴は、寒暖変化の激しい季節に起こるということです。季節そのものの寒暖変化の大きい時期、布団から起きる、暖房の効いた部屋に入る、日によって寒かったり暑かったりする、屋外に出る、風呂に入る、布団に入る。花粉だけでなく、このような寒暖変化にも人体はさらされています。

両蹻脈の機能が低下すると、この変化に敏捷に対応できません。その結果として、日中は、衛気は体表を走れず、体表は冷えているが体内は陽熱過多になり、寒いような暑いような不快感とともに、クシャミや目の痒さが激しく襲います。夜間は衛気は体内に入れず、入ったとしても陰の幅が足りないので中和されず、落ち着きません。両蹻脈を整えれば、これらは解決するということになります。

ただし、両蹻脈だけを治療すればよいということではありません。両蹻脈は一日単位での敏捷性にとんだ臨機応変さですので、軸となる不動のものが必要で、それに乗っかる形で依拠しています。その軸がシッカリしていなければ、両蹻脈は変に応じた働きができません。この衄が陽維脈と陰維脈で、これは一年を支配します。陽維脈は春分から秋分までの日の長い気温の高い時期を支配し、この時期は一年のうちでも活動期となります。陰維脈は秋分から春分までの日の短い気温の低い時期を支配し、この時期は一年のうちでも休息期となります。

話を進める前に、両維脈と両蹻脈の関係をを流注で解析しましょう。

まず陽維脈と両蹻脈の関係から。陽維脈と陽蹻脈は風池・臑兪・居髎で交会しています。陽維脈と陰蹻脈は交会していません。次に陰維脈と両蹻脈の関係について。陰維脈と陽蹻脈は交会していません。陰維脈と陰蹻脈も交会していません。両維脈と両蹻脈の関係は意外と希薄です。

両維脈と任督との関係はどうでしょう。陽維脈は瘂門・風府で交会し、完全に督脈の中に入っています。陰維脈は天突・廉泉で交会し、完全に任脈の中に入っています。このように左右二脈に分かれ、左右二穴ずつの対称穴であるはずの両維脈ですが、正中線では単独穴になっているという特殊性があります。よほど、督脈‐陽維脈、任脈‐陰維脈 のつながりが強いのだと思います。よって、ぼくはこれを、督脈‐陽維脈グループ、任脈‐陰維脈グループと呼びたいと思います。つまり、一年というサイクルでの陰陽は、活動期は督脈‐陽維脈グループ、休息期は任脈‐陰維脈グループ が支配している…そう仮定します。

改めて、督脈‐陽維脈グループと両蹻脈の関係、任脈‐陰維脈グループと両蹻脈の関係について解析します。督脈‐陽維脈グループには、晴明で陽蹻脈・陰蹻脈ともに交会します。任脈‐陰維脈グループには、承泣・地倉で陽蹻脈のみが交会します。

つまり、督脈‐陽維脈グループの時期 (夏場) には陽蹻脈と陰蹻脈が乗っかり、任脈‐陰維脈グループ陰維脈の時期 (冬場) には陽蹻脈が乗っかる。さきほど、臨機応変さには軸となる不動のものが必要で、それに乗っかる形で両蹻脈は依拠しているはずであると言いましたが、このようにまとめることができます。このあたりの話は、「ホットフラッシュ、肩髃で消失」にかつて詳しく展開しました。そこに示した図を転載しておきます。

3月9日から意識したのは、肩髃です。肩髃は、肩パット部分にあるツボです。
まず、3月9日時点で、任脈‐陰維脈グループ (秋分~春分) が主導しており、督脈‐陽維脈グループ (春分~秋分) はまだステージに上っていません。

肩髃は陽蹻脈に属し、体幹部としては最も外に位置する経穴で、外気に対するバリアとしての衛気の充実度を診るために適していると直感しました。実際、寒いときはこの辺を手でガードし、肩髃をすぼめますね。衛気が張り出せないから、肩髃をすぼめて衛気が後退しないようにしているのだと思います。奇経では陽蹻脈以外の交会はなく、正経では陽明大腸経に属して衛気に深くかかわるので、純粋に陽蹻脈だけを見渡すには申脈と肩を並べる重要穴かとも思います。申脈は陽蹻脈の宗穴なので重要ですが、足元まで回らないといけないので、忙しい時は手元で診られる肩髃で主に判断していました。肩髃が沈んでいれば、陽蹻脈が機能していないと診断します。

3月9日は春分前であり、陰維脈が主導しなければなりません。それができていない場合は陰維脈を用いて治療するのですが、この場合、内関や築賓を使います。これらは任脈に交会します。内関は直接の交会はありませんが、藤本蓮風先生提唱の尺膚診的な空間論に当てはめると、見事に任脈そのものとなります。

任脈が補えると承泣で陽蹻脈を補えるので、肩髃が浮きます。すると衛気が瞬間に体表を覆い、花粉症独特の喘ぎが楽になります。鼻の炎症も間もなく落ち着いてきます。

問題は、内関に反応がない場合。多くは疏泄太過で、無理しすぎたり食べ過ぎたりしています。疏泄太過には百会がよく効きます。腹痛であろうと腰痛であろうと胸痛であろうと、百会は頻繁に使う穴処です。膵炎の痛みですら百会で取っています。ところが、この百会が花粉症に効かなくなった。それが3月9日からでした。

百会を使いつつも、肩髃や申脈を浮かし、陽蹻脈を補うにはどうしたらいいのか。直感したのが、任脈‐陰維脈グループを補うことです。百会に手掌をかざし、よーく診る。すると前に穴処のありかを指し示す反応が確かにある。天突? 廉泉? ちがう。穴処の反応は顖会でした。効果はてきめんでした。

藤本蓮風先生も顖会が花粉症に効くとおっしゃっていますが、鼻や目は空間的に前だから、という根拠です。それもあると思いますが、ぼくは以上述べたような意味もあると思いました。任脈‐陽維脈グループという基礎の上に立つ陽蹻脈を補うことができるのです。顖会は百会の効果を保ちながらも、任脈を補うことを強く意識した配穴です。重要なことは陽蹻脈だけを強引に機能させようというのではなく、春分前のこの時期にシッカリすべき陰維脈をシッカリさせたうえで、陰維脈に乗っかる陽維脈をシッカリさせるという意図です。

ただし、顖会を使ってうまくいったのは10日ほどの間のみ。かつて内関に反応が出ていた体の状態では、3月19日にはもはや内関には出なくなり、外関に出るようになりました。任脈‐陰維脈グループから、督脈‐陽維脈グループにステージが入れ替わったからです。外関の穴処が出ている場合は問題ないのです。陽維脈、つまり外関や金門を補えば陽蹻脈・陰蹻脈ともに補えるので肩髃や申脈は浮くはずです。

しかし、これら穴処を使う機会は少なく、ほとんどが百会 (顖会) を使うべき状態です。

3月21日の祝日、午前のみ診察しましたが、花粉症のつらさを訴える患者さんが続出でした。肩髃・申脈を診ると、浮いている。今まではここが浮いていれば、必ず「楽です」の声が聞かれたのに。陽蹻脈と陰蹻脈がセットであることを考え、照海を診ると、左右ともに沈んでいます。鼻炎の症状を詳しく聞くと、のぼせがある場合が多い。照海が腎陰を補い陽亢を引き下げるという穴性を考えると符合する。照海を浮かせられれば花粉症がましになると直感しました。

百会の空間を診る。すると、もう前には出ていません。逆に後ろに出ている。瘂門もしくは風府? 穴処に反応はありません。よく診ると後頂に出ています。処置すると照海がその場で浮く。のぼせが瞬時に落ち着く。炎症は間もなく下火になりました。

後頂を花粉症で使うのは、表証を意識する場合が通常の考え方だと思います。しかし、今言う後頂は表証がない場合のものです。後頂は、督脈‐陽維脈グループを補うことを強く意識しています。百会はそもそも督脈に属する穴処で、わざわざ後頂にしなくても効くはずなのですが、このケースでの百会は後頂に劣るのです。花粉症だけでなく、すべての患者さんで、百会に行く場合は後頂の方が反応していました。

そんな後頂も長くは続きませんでした。3月28日の午後の診療から百会に戻る患者さんが見られました。19日に外関に移ってからわずか10日です。その後、後頂を使う機会はありません (3月30日現在) 。春分前後の陰陽変遷の激しさを意味するのでしょうか。

非常におもしろく、興味深く奇経 (空間) について考えています。

百会は空間的には督脈ではなく、伏衝脈 (百会から会陰にかけて体内を貫く脈) とも考えられます。そう考えると、顖会は前 (任脈) 、後頂は後 (督脈) を空間的に支配するのかもしれません。

一年のサイクルにおける春分は、一日のサイクルでいえば日の出に当たります。さっきまで暗かったはずが、山の端を照らす日差しは瞳を射てまぶしく、鳥のさえずりはけたたましく耳朶を打ちつけます。このような変化、激動の瞬間が春分です。陽蹻脈・陰蹻脈の敏捷さが最も求められる時期なのです。

それにしても、秋山選手のような頑強な肉体を持った人が、なぜ花粉症で苦しむのでしょうか。両蹻脈は左右あるいは東西を支配する、とされます。奇経のもっとも外側に位置するともいえる両蹻脈。根幹である任督衝は正経とともに機能していても、外端に位置する両蹻脈と外気環境との微妙な折り合いの悪さがあって、それが衛気に影響する。衛気が狂うと命にはかかわらないが、激しい不快感を引き起こします。花粉症にあえぐ患者さんの肩髃…肩関節の先端に位置するツボに手を触れながら、そんなふうに思いました。

コメント

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました