大暑…臨床のおもしろさ

ツバメの巣です。

張られた水に規則正しく並ぶ稲葉の上を、縦横に飛び交い餌を追うツバメたちは皆、こんな子供たちをどこかに待たせているのでしょうか。そしてこの子たちも夏の終わりとともに、はるか東南アジアへと渡ってゆくのです。

今年は梅雨入りが記録的に遅く、6月20日を過ぎて梅雨入りすると、日本列島の南岸に前線が停滞し、ジメジメとした、あまり暑くない7月となりました。梅雨前線が7月中旬まで北上しない梅雨は相当まれではないでしょうか。土は乾く暇すらありません。人体生命もこの状態になろうなろうとします。

治療穴はほとんど百会で、疏泄太過をうまく制御しながら気を下げ、不意の食べ過ぎ…湿痰のソースを断って、外湿の影響を最小限にできたという印象です。春から雨が少なかったため、湿気への抵抗力が弱いという環境下にしては、ですが。

7月16日から、脈幅が増える患者さんが散見され、今までほとんど百会ばかりを使ってきた治療にもバリエーションが出始めています。百会や外関は依然としてよく使いますが、天枢・滑肉門・帯脈・左右百会・肝兪・至陽なども使うようになりました。右大巨で冷えを取るケースも複数ありました。

7月22・23日の治療では、ここ4・5日の暑さによるのでしょう、早くも夏バテ様の症状が見られました。邪熱が主要矛盾ですが、症状は湿痰を彷彿とさせるような「重たさ」です。壮火食気の法則通り、邪熱が脾気を弱らせることによる体の重さを訴える患者さんが数人おられました。

最近、注目しているのは、太白と太谿の反応です。左右相対的虚実ではなく、絶対的虚実の観点から診ると、この2穴は、虚の反応も出ますが、多くは実の反応が出ます。実の反応に関して、太白単独で出るときは軽症で、このとき背部兪穴の実の反応の範囲は狭くなります。太白・太谿同時に出る場合は重症で、このとき背部兪穴の実の反応の範囲は広くなり、風門から大腸兪付近まで感知されます。太谿単独で出ることはありません。

これら穴処にどういう邪実があるのか。気滞・邪熱・湿痰・湿熱・瘀血…。これらをかみ分けて診ています。太白太谿両方に邪がある場合、双方必ず同じ邪が感知されます。これにどういう意味があるのか。たとえば邪熱が太白を襲っているのならば、邪熱が主要矛盾で、後天の元気を押さえつけていると見ます。邪熱が太白太谿を襲っているのならば、先天・後天の元気を押さえつけていると見ます。

22・23日の治療の話に戻ります。太白に邪熱が襲っている形が非常に多かったと思います。ずっと涼しかったのに急に暑くなったこと、湿邪が邪熱の発散を押さえつけていることが要因だと思います。対処策としては、冷たい飲食物を避けること、クーラーをつけるとしても太淵穴に少し発汗する程度にしか温度を下げない、夜更かしに注意、ウォーキングに励むこと…です。

理由はこうです。冷たいものを飲食すると、夏に冷たいものは自然には存在しないので、体が「冬かな?」と勘違いし、体温を発散させないように、魔法瓶状態になってしまいます。クーラーで完全に涼しくしていると、発汗のルートが閉ざされ、発汗のルートは邪熱の発散ルートになるので、道は使わないと草がしこって歩けなくなるように、ルートが使えなくなる、そうすると熱がこもってしまうのです。夜更かしするとクールダウンする力がなくなるので、邪熱がますます盛んになります。ウォーキングは邪熱の発散ルートを鍛える効果があります。

そんな中でこんな人がいました。太白の邪熱を確認の後、症状を聞くと、「だる重いです」。だる重さと聞くと湿痰を疑いますが、主要矛盾は邪熱です。合わないな…と思っていると、「2・3日前から暑くなってからなんです」。たしかにここ最近、夜が特に暑くなっている。

だる重さは、やはり脾臓 (消化・吸収・栄養機能) の問題なので、壮火食気の病理が合うはずです。邪熱が脾気を阻遏している。その状況が体表に現れているはずです。どこかにないか…。太白はもちろん実の反応なので、それ以外に弱りの反応を探してみました。足三里・合谷・天枢…元気にかかわる穴処を探ってみましたが、反応なし。

あきらめかけたが、衝陽を探ってみると右に虚の反応があります。太白の邪熱と右衝陽の虚が夏バテを示すのかどうか。もう一人、同じ反応を示す患者さんも夏バテが主訴でした。これからが興味深いところ、使えるかどうか注意してみていこうと思います。こういう楽しみを持ち続けることが大切なのです。

去年は猛暑でしたが、夏バテは意外に少なかった印象です。今年は暑さに慣れていない状態で夏土用を迎えていますので、猛暑でなくとも夏バテの多い年になるかもしれません。

蒸し蒸しとして日差しの少ないこの時期に、豊富に飛び交う虫たち。それを猛スピードで追う親ツバメ。ヒナの目は、いまは親鳥の運んでくる餌に夢中です。そしてそのうち、真夏の照り付ける陽光のもと自ら虫を追いかけ、やがては母鳥の背を追って大洋を渡るのでしょう。生まれたばかりの生命の、真っすぐで好奇心あふれる瞳は、まだ見ぬ南洋異国のパノラマを捉えるのです。その目を生涯忘れずに、ぼくも新しい世界を追い求め、臨床を高めていきたいと思います。

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