精神疾患 (癲病) の治験

28歳。男性。

精神疾患があり、心療内科で薬をもらっている。
過去に発狂した時期がある。
それが落ち着いてからは、恍惚とした少年のような感じになり、時としてしんどくなる。いわゆる癲病 (てんびょう) である。

症状

週に2回しんどくなる。発作である。

夕方5時ごろから始まり、寝るまで続く。翌朝起床時にはおさまっている。

どういうしんどさかというと、イライラ・ソワソワ・激しい焦燥感がある。鼻が詰まって息ができない。クンクンと鼻を鳴らす。口が乾き粘るのでペチャペチャいわす。指パッチンをしきりにする。じっと寝ていられず、ゴソゴソしてトイレに何度も行くが、用は足していない。

かわいそうなくらいに落ち着かないのだ。

週に1回の治療で、しんどい時間はかなり短縮した。午後5時から始まり、午後7〜8時の間におさまるようになった。

仕事 (単純な組み立て作業) を終えてから夕刻に来院する。
ポップコーンが好きで、一袋完食してから治療に来ることもある。

問診で情報を得る

ある日の治療での出来事。

今、すでに口をペチャペチャしている。

「今日はしんどい日?」
「ハイ、しんどい日です。」
「前回の治療もしんどい日やったな。あの後、どうやった?」
「結局、9時までしんどかったんですよ。」
「9時までって言ったら、最近にしては長かったということやな?」
「そうですね。」
「治療しない日ってさあ、仕事から帰ったらすぐにご飯食べる?」
「そうですね、すぐ食べます。」
「ポップコーンは食べない?」
「ポップコーンですか。ポップコーンは食べないですね。」
「今日は?」
「今日は食べてきました。」
「それでまた、治療終わってからご飯食べる?」
「食べます。」
「もしポップコーン食べなかったらどうなる?」
「なんか落ち着かないですね。」
「今日は、ポップコーン食べる時、もうすでにしんどかった?」
「はい、すでにしんどかったですね。」
「それ、おにぎりに変えたらあかん?」
「え おにぎりですか。おにぎりやったらいいんですか?」
「無理やったらええで。でも、それでもいいかって思えたら、その方がええよ。たぶん、前回の治療で9時までしんどかったのは、ポップコーンが効いてると思うなあ。」

切経で情報を得る

体に触れて診察する。

ミゾオチから胸にかけて診察する。しんどい日は、やや左側の胸部 (左不容から上) に邪が出ている。第二肋間あたりまで達している。

合谷に邪熱の反応がある。この邪熱がしんどさの原因だ。
血虚の反応を神門・血海・三陰交で診る。反応はない。
足三里の反応を診る。邪熱がある。

病因病理を説明する

足三里を触りながら、
「ああ、ここがすでに滞ってるな。いま食欲は?」
「ないです。」
「ポップコーンでお腹いっばい?」
「はい、ポップコーンでお腹いっぱいです。」
「途中で滞ってるからなあ。まずここ (おなか) を取って、それから胸の邪熱を取らなあかんから…。二段階の治療をしないとあかんから…。」
「え? どういうことですか?」
「口からお尻の穴って、一方通行やねん。上から下に…。お尻からご飯って食べられへんやん?」
「ハハハ そうですね。」
「このしんどさって、胸に熱があるねんな。それが楽になるときは、この一方通行に従って、下に下がる。胸から下に下がっていって最後は大便ででる。だから楽になるねんな。でもな、その途中のお腹に滞りがあると、下に下がられへんやん? もし滞りがなかったら、邪熱だけを下に導いたらええだけやから、治療がよく効くと思うんやけど、すでにポップコーンがあるんやったら、まずそれから取るしかないんよ。」

この説明は、陽明病 (陽明腑証) を理解するうえでの基本である。

「じゃあ、何も食べてこない方がいいですか?」
「そうそう、その方が鍼もよく効くんやけど、それじゃ落ち着かないでしょ。だから、それが無理ならポップコーンじゃなしに、おにぎりにしたらどうかって話。 でも、それも無理ならええねんで。」

説明のみで著効

ニヤニヤしたような表情の緩みは癲病の特徴であるが、この話を聞いて、キリッとした顔つきになった。

「そうなんですか…。」

ん? 口をペチャペチャさせていない!
効いた?
足三里の反応を診る。邪が取れている。
左胸を診ると、邪が大幅に下がって縮小している。
間違いない。すごく良くなっている!

「今しんどさは?」
「なくなりましたね。」

切経 (ツボの診察) の大切さである。鍼灸家・湯液家の区別なく、東洋医学を実践するものとして、切経を軽んじていては確信の持てる診察は難しい。確信ある診察とは、患者さんの体に寄り添うことである。

「なるほどって思った?」
「なるほどって思いました。おなかすいてきました。」

お腹がゴロゴロ鳴っている。

「うーん、『なるほどの力』やなあ。」
「なるほどの力ですねー。」

再度、左胸を診る。症状が出ないレベルにまで改善している。
普通に鍼をするよりも効いている!

「ちょっとはしんどい?」
「いや、しんどさはないんですけど、またしんどくなるかなっていう不安があるんで…」

インフォームドコンセント

右外関に鍼を打つ。5分置鍼。10分休憩。
母親の治療が終わるまで、待合で待つ。
かれこれ30分が経過するが、しんどさの再発なし。

「なるほどやな。」
「なるほどですね。」
「先生そんなこと言うけど、ホンマかなぁ?って思ったらあかんで。」
「思ったらまた、しんどくなりますね。」
「ハハハ、そうそう。」

説明と納得 (インフォームドコンセント) の大切さである。
これだけで効いてしまうのが理想だ。
鍼はその効果を持続させる補助的なものとして。

当該患者の場合、食生活の改善ができなければ治ることはないとみている。かつての発狂 (狂病) も、今の癲病も、ここが根本の原因である。しかし、強制的に食生活を改善させたとしても、うまくいくことはない。強制は何の効果も出ないばかりが、長期的にみると必ず悪影響が出る。リバウンドが起こるのだ。

生活習慣改善が根本

本当に正しいことが相手に届けば、体に潜む無意識は必ず反応してくる。
だから勉強が大切なのだ。本当に正しいこととは何なのか。治療家はまず、それを知らなければならない。僕はそれを「患者さん」という教科書から学ぶ。本症例でも多くを学んだ。
治療して効けばいいというものではない。誤った「説明と納得」が行われているならば、やがて良くない結果をもたらす。

どのようにして生活習慣を正しい方向に導くか。
ここに心を砕く。
さまざまな治療手段は、それを補助するものにすぎない。

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