傷寒論私見…麻黄杏仁甘草石膏湯〔63〕

63 発汗後、不可更行桂枝湯、汗出而喘、無大熱者、可与麻黄杏仁甘草石膏湯主之、

桂枝湯はジワッとした汗が出たらすぐに服用を止めなければならない。いつまでも服用を続けると発汗過多になってしまう。そうした発汗過多後に、自汗・呼吸困難が出たら麻黄杏仁甘草石膏湯を与えたらよい。

発汗過多による病状の変化です。58・59条の「亡津液」を受けています。

▶葛根黄芩黄連湯と類似

よく似た証が34条の葛根黄芩黄連湯です。下痢以外は症状がよく似てますね。実は病理も似た面があります。

34「太陽病、桂枝証、医反下之、利遂不止、脈促者、表未解也、喘而汗出者、葛根黄連黄芩湯主之、」

34葛根黄連黄芩湯証は、本条を理解するうえで不可欠なので、かいつまんで説明します。

まず、桂枝湯証を下してしまい、大腸虚という裏虚が生じた反動で、表の風邪が相対的にひどくなります。裏 → 境界 → 表 というふうに境界が侵されます。
境界が侵されると陰陽ともに病むことになるのですが、裏から影響して、表邪が相対的に強くなります。パワーアップした風邪は表にも残余しつつ、境界を越えて裏の大腸に内陥します。
大腸の熱が強すぎて、表裏 (陰陽) 関係である肺にまで境界を越えて影響し、喘をおこした。自汗は桂枝湯証によるものと内熱によるものと両側面あります。

葛根黄連黄芩湯証で重要なのは、虚が極まって実となる証例であるという点です。

34葛根黄連黄芩湯証と本証との類似点・相違点を項目別にまとめます。

▶類似点

  • 汗出・喘が両証に共通する。汗出は桂枝湯証と内熱とによるものである。喘は表寒によるものではなく肺熱によるものである。これらは両証ともに共通する。
  • 本条「不可更行桂枝湯」、34「桂枝証、医反下之」、両条文とも、「桂枝湯」とわざわざ明記している。桂枝湯証とかけ離れた実熱証だからだろう。発汗過多や誤下は桂枝湯証を誤治したものとする意図があると16条に述べたが、誤解を避けるために明記したのだろう。
  • 両証とも、裏 (陰) 虚を急激に形成し、境界と表 (陽) に影響を与え、表裏にまたがる証を形成している。その結果、表の風邪が相対的にパワーアップした。
  • 両証とも、境界が侵されているので、風邪が表に残りつつも、内陥し内熱になる。
  • 両証とも、桂枝湯証という虚証を誤治して虚をひどくしたが、虚が極まって実となり、実証を形成している。

▶相違点

  1. 葛根黄芩黄連湯は桂枝湯証を誤下した壊病だが、本証は桂枝湯証を発汗しすぎた壊病である。
  2. 葛根黄芩黄連湯では下法によって大腸の弱りを起こしたが、本条では汗法によって肺陰の弱りを起こした。いずれも急性である。
  3. 葛根黄芩黄連湯証は、大腸熱 (本が大腸、標が肺) を取り去る処方になっている。本証は、肺熱なのでそれを取り去る処方になっている。

表裏にまたがる証として、麻黄杏仁甘草石膏湯と二陽併病 (48条) との鑑別も確認します。二陽併病は発汗が不徹底、もしくは経過が長引いて、正気のくたびれが原因で起こります。本証とは明らかに違います。

▶麻杏甘石湯証とは

まず、桂枝湯証があって、それを桂枝湯で発汗するのですが、桂枝湯を服用させ過ぎて発汗過多に陥ります。その結果、患者はもともと肺陰が不足気味の人だったのでしょう、肺陰が大きくダメージを受けます。表の風邪は、それに付け込んで肺に内陥します。

普通なら陽明に内陥するのですが、肺みたいなところに内陥すること自体おかしい。これは太陽と太陰肺の境界にぼやけがあったからです。あるいは陽明が邪を受け容れられないほどの問題を抱えたか。いずれにしても太陽か陽明かに仕分ける少陽がうまく働かなかったことを意味します。だから表に風邪を残したまま、肺に化熱しながら入裏した。

ただし、虚証 (桂枝湯証) から、実証へと鮮やかな転身をとげていますね。これは虚実の境界は機能していたことを示します。

麻黄杏仁甘草石膏湯方麻黄四両 杏仁五十個 甘草二両 石膏半斤、右四味、以水七升、煮麻黄、減二升、去上沫、内諸薬、煮取二升、去滓、温服一升、

▶越婢湯と類似

▶組成

組成と薬理が似ているのは越婢湯です。金匱要略の薬です。

「風水悪風.一身悉腫.脈浮不渇.続自汗出.無大熱.越婢湯主之.
越婢湯方.
麻黄六兩.石膏半斤.生姜三兩.大棗十五枚.甘草二兩.右五味.以水六升.先煮麻黄.去上沫.内諸藥.煮取三升.分温三服.惡風者.加附子一枚.炮.風水加朮四兩.」

 越婢湯… 麻黄 6 石膏 8 甘草 2 生姜 3 大棗 15 
 麻杏甘石湯… 麻黄 4 石膏 8 甘草 2 杏仁 50

越婢 (加朮) 湯は27条で詳しく説明しましたが、かいつまんで説明します。

まず、風熱が肺経に侵入する。これを肌表 (肺経) で持ちこたえようとするが、風熱の力が強く、境界を越えて肌裏 (肺臓) に影響する。
肌裏に影響すると肺の通調に乱れが生じ、水道を通調し宣発粛降することができず、風水となる。
石膏は辛開によって肌肉の熱を表に向かって発散する。石膏に麻黄を加えると、肌肉でも表面に近い部分…つまり肌表に近い部分の熱を太陽開によって発汗を通じて発散して排邪する。麻黄は肺の宣発を強化する働きがある。

▶越婢湯との類似点・相違点

越婢湯証と本証の 1.類似点・2.相違点をまとめます。

  1. ▶両証とも、風邪が肺経 (肌表) に入り、境界を越えて、肺 (肌裏) に邪熱をもたらす。
    麻黄・石膏の組み合わせで、肌表から肌裏の邪熱を発散する。
  2. ▶越婢湯証は肺の通調に、麻杏甘石湯証は肺の宣発に、それぞれ主要矛盾がある。
    ▶越婢湯証は、通調を生姜・甘草・大棗の制水作用 (土のスポンジ作用) により補強する。麻杏甘石湯証は、宣発を杏仁の肺気宣通作用 (ポンプ作用) により補強する。

58条の「凡病、若発汗、若吐、若下、若亡津液、陰陽自和者、必自愈、」と照らし合わせるなら、
◉肺の臓腑経絡の肌肉と皮毛を治療する。
◉肺の浅い部分の熱を取る去ることにより、深い部分の弱り (肺陰虚) を補う。
…つまり、深浅という陰陽を調和させています。

▶「無大熱」について

「無大熱」という表現は、「有大熱」の誤写だとか、当時は体温計がないから発熱が分かりづらかったからだとか、各書で意見はまちまちですが、共通するのは肺炎のような状態で、高熱があるということのようです。

奇しくも仲景先生は、越婢湯にも「無大熱」と、同じ表記をしています。麻杏甘石湯証も越婢湯証も、上に説明したように陽明病にはなり切っていません。陽明病の特徴は、大熱・大汗・大渇です。

越婢湯では「汗出」と言いつつも、ハッキリと「不渇」「無大熱」といっていますね。まるで、石膏は使うが陽明病ではないよ、と親切に言ってくれているかのようです。

たとえ肺炎であったとしても、邪熱が完全に肺の深い部分 (肺の陽明) に至った証ではなく、肺~肺経の思ったよりも浅い部分…邪熱を闔ではなく開で排邪できるレベルのもの…に邪熱が存在する場面で、張仲景は麻杏甘石湯を用いたのではないかと思います。

▶鍼灸

鍼灸でいくなら霊台・後渓などでしょう。反応が出ている穴処を用います。

杏仁 (苦辛温) の辛散による肺の宣発・石膏の辛寒による熱の発散・麻黄の皮毛を突き破る辛開をイメージし、邪を浮かせて取ります。甘草は陰陽をつなぐ役目があります。鍼と生体をなじませる感覚だと思います。

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