痛いところに鍼をしない、たった一本の鍼

一本鍼。

しかも僕は、痛いところに絶対に鍼をしない。

内科の病気には効きそうだけど、痛みには効かなさそう?

「もうええから、痛みだけとってくれたらええねん!」
そういう患者さんに出くわすこともある。どんな患者さんであろうと、僕は相手が納得するまで、時間をかけて丁寧に説明する。治療を受けずに怒って帰った患者さんもいたなあ。それでも僕は機嫌をとらない。

慢性の痛みにはブレーキとしての意味がある。痛みだけを消すのではなく、痛みの原因となるものを取ることが第一義だからだ。

病気って何だろう をご参考に。

しかし、急性の痛みには、単なる「ケガ」にすぎないものがある。バックに問題がないことを見抜きさえすれば、そういう説教は垂れない。痛みだけが取れるからだ。それは「大ケガ」であっても同じである。

94歳、痛みで寝たきりに?

94歳、男性。××年2月初診。

10日前から腰痛。まんなか~やや左。
腰が痛くて動けない。10日間、ずっと寝たきりになっている。
このご老人は毎日散歩をされていた方で、それが過ぎて痛みが出て動けなくなった…とご家族の方はおっしゃっていた。ずっと寝ているので、このまま寝たきりになってしまわないか心配です、とのこと。

本人は、耳が聞こえないので問診が詳しく取れない。付き添いの家族から経過を聞くのみ。

寝返り・起き上がるとき・ヘッドに寝るとき、その動作で激痛、「痛い、痛い」とのこと。
動作にかなりの時間がかかる。こういう状態が10日続いている。

腰をこぶしで軽くたたく。痛みがある。叩打痛である。こういうものはその局所の組織に損傷・炎症がある。

たとえば圧迫骨折の特徴として、寝返りや起き上がるとき、寝ようとするときに息が止まるほどの激痛が見られるが、全くそれと同様である。

耳が聞こえず会話ができないため、脈診・触診・望診のみで治療。

霊台 (第6胸椎) に鍼を1mm刺入。補→瀉。10分置鍼。20分休憩後、治療を終える。

治療後、脈診その他の所見は改善しているが、腰の痛みは全く変わらず。

4日後来院。
普通に寝起きしている。家族の話によると、次の日から良くなった、とのこと。

あっさり治った例である。急性の痛みでは、こういうことはいくらでもある。

見た目は派手だが、体調の問題は少なく、腰だけの損傷の問題が大きかったと推測できる。しかし94歳という高齢、治療をせずに放置しておけば、このまま寝たきりになった可能性は高い。

痛み、その他の治験

肉離れ

いわゆる肉離れ (筋断裂) でも、治療の翌日に痛みが取れてしまう…という例はいくらでもある。指で患部を触って明らかに断裂部分が触知できるレベルの筋断裂である。もちろん、少し動かしただけで激痛がある。それが一夜で改善する。

ねんざ

足関節の捻挫で、趾 (ゆび) 先まで内出血の広がっているものが、翌日にジョギングができる。こういうのはもう慣れているので、あまり詳しく記録していないことも多い。捻挫で初診を受ける患者さんはまずいない。継続中の患者さんで経験するのみである。

肩関節痛

投げすぎで肩が上がらなくなった野球少年は、その場で肩が上がり、当日の練習に参加、アップのキャッチボールは少し痛みがあったが、キャッチボールが終わるころには痛みがまったくなくなった。これは左腰 (左腎兪) に鍼をしたが、鍼は刺さずに かざしただけである。

首の痛み

仕事でいそがしい32歳の女性は、1週間前から右首肩の痛みがひどく、右奥歯までうずき出した。仕事帰りの夕刻に初診、右後渓に鍼を打つと、そのまま熟睡。しかし痛みは全くましになっていない。
治療後も眠気が覚めず、早く就寝し、朝まで熟睡した。起きてみると首肩の痛みはなく、無理に首を傾けたときに違和感がある程度となっていた。歯痛は全くなくなっていた。

膝痛

ちがころ右膝が痛く、コーラスのサークル活動が楽しみな77歳のご婦人は、
「先生、ウソみたいに治りました。治療の日が金曜日だったでしょ、土曜日はコーラスの練習には痛くていけないかな、と思っていたんですけど、その日になってみたらましになっていたので行きました。翌日の日曜日には、もう全く痛みはなくなっていました。」
治療穴は関元 (へその下) である。0番鍼を2ミリ刺入し3分置鍼した。

ギックリ腰

うつで投薬中の40代の女性は、ギックリ腰で初診、腰をかがめて膝に手をつき、顔をゆがめながら来院したが、帰りは痛みが無くなったと言って、まっすぐ立ってニコニコしながら帰っていった。百会に一本鍼である。

想像を超える早さ

つまり、一本鍼はケガにも強烈な効き方をするのだ。一本鍼は体調の調整をする。体調さえ整えば、ケガというものは想像を超える早さで治癒するということがよく分かる。

いずれも、痛い処には全く鍼をしていない。

疲れを取る。結果として痛みが取れる。
痛みを取って疲れを取らなければ、疲れが増してしまう。
患者さんの「いま」だけでなく、「このさき」を案じる。
そういう考え方が、もっともよく効く治療でなければならない。

痛いところに鍼をしない、たった一本の鍼。
一見 頼りない。
だが、見た目で判断してはならない世界は確かにある。

とにかく、この程度の技術がないことには、慢性固着化した病には立ち向かえない。

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